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第3章ー3

 営口へ向かう海兵師団。

 その前にミシチェンコ騎兵軍が向かいます。

「君に騎兵75個中隊と砲22門を預ける。その部隊を率いて、営口を襲撃、日本軍の後方を脅かしてくれたまえ」

 クロパトキン露満州軍総司令官は目の前の男に命じた。

 目の前の男、ミシチェンコ将軍はにやりと笑って言った。

「営口にいるのが2個師団であっても、それだけの騎兵を私に預けていただけるのなら、営口を焼野原にして見せましょう」


 ミシチェンコ将軍に対して、このような命令が出た理由を説明するには時系列を多少さかのぼる必要がある。

 1904年8月に行われた遼陽会戦、同年10月に行われた沙河会戦により、満州平野の日露両軍は沙河を基本的に挟んで対峙する現状に陥っていた。

 いわゆる「沙河対陣」である。


 日本軍としては、旅順攻略に携わっている第3軍の北上と春の訪れを待って3月に最終決戦を挑むつもりであった。

 沙河会戦が終わった後、10月下旬から発動された旅順要塞第3次総攻撃により、旅順要塞守備隊が壊滅的打撃を受け、年内には旅順要塞陥落が必至となったことから、この最終決戦案は確実に発動できると考えられた。

 そのために日本軍としては当面、守勢を採ることになった。


 一方、露軍も兵力の増強を図っていた。

 露軍としては厳寒期の終わりである2月中旬に攻勢を発動するつもりだった。

 露軍にとって冬将軍は最大の味方である。

 時間が経てば経つほど、欧州方面にいる精鋭部隊が満州に駆け付けてくる。

 そして、1904年の11月が終わるまでは、冬将軍の味方と援軍の到着時期から総合して2月中旬に攻勢発動と言うことで露の満州軍は意思が統一されていた。


 その時点では、露満州軍は春先まで旅順要塞は抗堪できると考えていたのである。

(当時の無線技術では、露満州軍と旅順要塞守備隊が詳細に通信することは不可能だった)

 ところが、1904年12月初頭、旅順要塞守備隊は降伏してしまった。


 旅順要塞に籠城していた部隊からして、日本軍は最低でも6個師団は旅順要塞攻略の第3軍に向けていたと露満州軍は考えた。

(実際には第3軍には3個師団しかいなかったのだが)

 そのために、2月中旬に作戦発動では6個師団が「沙河対陣」に駆け付けており、露満州軍が攻勢に出るには兵力が不足すると考えられた。

 では、どうするのが最善か。


 露満州軍は検討した末、1月上旬にミシチェンコ将軍に大規模な騎兵を与え、ミシチェンコ騎兵軍を編制して、日本軍の左翼を大迂回して、営口から大石橋方面を襲撃し、日本軍の後方を大混乱に陥らせることで、第3軍の6個師団を日本軍が後方警備に当てざるを得ない現状を作りだし、その上で1月下旬に日本軍の左翼に攻撃を加えるという作戦案が採用された。


 12月初頭から作戦を練り直しては、部隊の移動等の準備期間を考えると、1月にならないと作戦の発動はできない。

 かといって余りにも時期を遅らせては、第3軍の6個師団が「沙河対陣」の最前線に到着してしまう。

 このようなことから時期や兵力等について検討を繰り返した末に露満州軍は作戦について上記の結論に達したのである。


 ミシチェンコ騎兵軍は、1月8日、編制を完結して、営口に向かって出撃した。

 後に、この出撃は、騎兵の時代の完全な終焉を告げる悲劇の出撃として世界に記憶されることになる。

 ミシチェンコ将軍が出撃前に自信満々であったことが更にその悲劇性を高めて、世界に記憶された。

 ある史家は次のように述べる。

 「英仏百年戦争のクレシーの戦いを前にしたフランス騎士達と同様に、ミシチェンコ騎兵軍は自信に満ち溢れて出撃していったのだ」

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