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第3章ー2

 柴五郎大佐が内心でため息を吐きながら、今日の訓練を終えて駐屯地へと戻ると土方勇志少佐が待ち構えていた。

 何か悪いことが起こったのか、と思わず身構えたが、そんなことは無かったらしく、土方少佐は笑みさえ表情に浮かべていた。


「何とか営口上陸時には各海兵中隊に1挺ずつ機関銃が配備できそうです。3月初頭と見込まれている奉天会戦時には各海兵小隊に1挺ずつ機関銃を配備できるように努力する旨、海兵本部から連絡がありました」

 土方少佐は柴大佐に報告した。


 柴大佐は、思わず首を振った。

「おいおい、満州に展開している陸軍が装備している機関銃よりも海兵隊が保有する機関銃の方が多くなるのではないか」

 柴大佐は呆れ返った口調で話した。

 実際、それが本当なら営口上陸時には48挺の機関銃が海兵師団に届き、奉天会戦時には192挺にも海兵師団の機関銃の装備が膨れ上がることになる。


「私には本当にこれが可能なのかどうかは分かりません。ただ、海兵本部がそれ位、機関銃の購入に熱心になっているということです。補給の困難さについては考えたくもありませんが。もう、機関銃ならどこの国のものでも買えという勢いで買いまくっているらしいです」

 土方少佐は続けて言った。


「海兵隊というと白兵戦重視で火力軽視という対外イメージがあったが、大嘘だったのか。土方少佐の父上が見たら何というかな」

 柴大佐は思わず口に出してしまった。

「父のことを言うのは止めてください」

 さすがに土方少佐も表情を曇らせた。

 土方少佐の父、土方歳三提督は海兵隊においては伝説的存在である。


「すまん、すまん」

 柴大佐は思わず謝った。

 だが、内心では別のことを思った。


 全く現実からすると止むを得ないとはいえ、海兵隊は火力強化に狂奔せざるを得ない。

 土方提督が存命ならどうするだろう。

 戊辰戦争から西南戦争における半伝説と化した話しからすれば、戊辰戦争において刀から速やかに銃に切り替えたのと同様に、今回は機関銃の大量装備を土方提督はやはり決断したろうな。

 それから考えると、林忠崇提督が言いだして、本多海兵本部長らも同意している今回のことは、海兵隊の伝統に則った行動と言うことか。


 それしかないのが現実と言うものだな。

 柴大佐は自問自答の末に納得した。

 土方少佐の話は続いていた。


「林師団長からの指示です。1月2日を期して、大連港から営口港への海兵師団の海上輸送が正式に決まりました。揚陸設備の関係等から1月10日までに軍夫等の後方部隊も含めて海兵師団の全ての兵員と物資を営口港に揚陸させて、そこから徒歩で最前線まで移動するので、隷下の部隊は全てそのように準備等を整えるようにとのことです。正式な命令書は追って届けるが、口頭で伝達するように林師団長から指示がありました」

「了解した旨、林師団長に伝えてほしい」

 柴大佐は返答した。

 それにしても移動に鉄路は使えないのか。


 柴大佐の疑問を読んだのか、土方少佐は続けて言った。

「本当なら鉄路を使いたいのですが、重砲や物資の移動に少しでも鉄路を使いたいとの満州軍司令部の要請があり、歩ける我々は徒歩で移動することになったとのことです。その代り、少しでも休めるように配慮するとのことでした」


「分かった」

 柴大佐は渋々肯いた。

 本当に休めるのか、柴大佐は疑問を覚えた。


 実際には休めなかった。

 海兵隊は営口でいきなりロシア軍の猛攻の洗礼を受けることになる。

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