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第2章ー49

 この世界での水師営の会見です。

 12月5日、水師営にて日露両軍の将帥の会見が行われた。

 旅順要塞守備隊の降伏の旨を大本営に対して第3軍が知らせたところ、山県有朋参謀総長を介して露軍の将帥に対する勇戦を称える勅旨が行われたために、露軍の将帥には特に帯剣が許されていた。

 会見に参列した露軍の将帥は、その事に対する謝辞をまず述べた。

 その後、会見に参列した将帥の間で歓談が交わされた。

 土方勇志少佐は林忠崇中将の指名により会見に参列することができた。


 ステッセル中将がまず尋ねた。

「旅順要塞を攻囲した日本軍は最大時にどれくらいいたのです」

 乃木大将が答えた。

「陸軍2個師団、海兵隊1個師団を基幹としており6万人程です」

 ステッセル中将はその答えに感嘆して答えた。

「我が軍が東洋一、世界屈指と豪語していた旅順要塞をそれ程の兵力で攻囲していたとは、少なくとも10万人はいるものと誤解しておりました。我々には陸海軍併せて6万3000人の兵力が旅順要塞に対する攻囲が始まった時におりましたのに」


 土方少佐はその答えを聞いた瞬間に背筋が冷たくなった。

 我々は多くとも4万人程しかいないと誤解していた。

 無知からくる誤解とはいえ、よくもまあ最大時6万人の兵力で落とせたものだ。


 ステッセル中将は続けて言った。

「日本軍は多大なる損害を被ったと聞き及んでおります。乃木大将のお子さんも亡くなられたと。戦場の習いとはいえ、心から哀悼の意を表します」

 乃木大将はその話に心を動かされたのか、思わず瞑目したように土方少佐には見えた。

 だが、表面上は表情を変えぬまま、乃木大将は返答した。

「これぞ武門の面目です」


 日露両軍の将帥の歓談は絶えなかった。

 お互いの武勇を称賛し合った。


 203高地攻防戦の話になった。

 ステッセル中将が話した。

「あの時、203高地を主に守備していたのは旅順艦隊の乗組員からなる海軍歩兵でした。日本軍で203高地を攻めたのは海兵隊であったと聞いております。海軍の将兵が陸で激戦を戦う羽目になったとは、何とも言えない想いがします」


 乃木大将が答えた。

「あの時は、露海軍の提督が最前線で戦死されたと聞き及んでおります。実は日本の海兵隊の提督も最前線で戦ったのです。それくらいお互いに苦しい戦いでした」

 ステッセル中将はその答えを聞いて驚愕した。

「ひょっとすると知らずにお互いに直接、戦ったのかもしれません。その提督はここにおられますか」


 林忠崇中将が進み出て答えた。

「私がその提督です」

 乃木大将が口を挟んだ。

「私の知る限り、陸戦では我が陸軍も含めて1、2を争う将帥です。元々は大名です」

「大名と言うことは、元々は将軍の直臣ですか。日本の海兵隊は、将軍の親衛隊の末裔と聞き及んでおります。それが本当だったとは」

 ステッセル中将の感慨は更に深まったようだった。


 歓談が終わった後、日露両軍の将帥は記念の写真撮影を行い、それぞれの陣営に戻った。

 こうして、水師営の会見は終わった。

 こうして、日本軍は4万人が死傷し、露軍は4万7000人が死傷した旅順要塞攻防戦は遂に終結を迎えた。

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