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第2章ー47

「厄介なことになったな」

 本多幸七郎海兵本部長はため息を吐きながら独り言をつぶやいた。

 傍では斎藤実海兵本部次長も渋い顔をしている。

 大本営から海兵師団は引き続き陸軍の隷下におかれ、旅順要塞陥落後は奉天決戦に向かうことが内示されたのだ。


「不可能とは言わんが、海兵隊はもうボロボロだぞ」

 本多海兵本部長は、最新の旅順からの報告書の内容をあらためて思い出した。

 海兵師団1万7000人の内、延べ1万6000人程が死傷している。

 第1次総攻撃で負傷して、第2次総攻撃で死傷した者は二重に数えられているから単純には言えないが、最初から旅順攻略戦に参加して無傷なのは林忠崇中将以下、2割にも満たないという悪い冗談が海兵本部では流れる惨状だった。

 最も厄介なのは、海兵隊の制度から簡単に補充が集められないことだった。


「斎藤、実際問題として、予備役を全員現役復帰させるとして補充できるか」

「できるわけがないでしょう」

 本多海兵本部長の問いかけに斎藤次長は渋い顔のままで答えた。


 海兵隊の平時は海兵4個大隊を基幹として各種砲兵、工兵等を付加しているものだった。

 それを戦時ということでほぼ3倍に拡張して師団編制にし、旅順に向かわせたのだ。

 裏返せば、平時の海兵隊の3倍の人員が死傷していることになる。


 幾ら戦時を想定して予備役を充実させていたとはいえ、ここまでの損害を被ることは想定していない。

 予備役士官で現役復帰の指示を受けていないのは斎藤一予備役少将のみという性質の悪い冗談が海兵本部人事課では流れているらしい。

 実際にはそれ以外にもいるのだが、重度の結核を患ったり、負傷していたりで現役任務に耐えられない者しか残っていない。


「連隊長を中佐が、大隊長を少佐が、中隊長を中尉が、小隊長を特務曹長が務める例が発生しています。人事的には末期状態ですね」

 斎藤次長は言った。

「西南戦争末期より酷いな」

「全くですな」

 本多海兵本部長の感想に斎藤次長も同意した。


「とりあえず生き残った者を昇進させることで対処します。短期士官養成課程を海軍省と協議して設置した上で、優秀な下士官や兵を士官にもしますが、半年はかかりますね」

 斎藤次長は言った。

「兵はどうする。兵がいないとどうにもならん」


「海軍省に泣きついて、海軍の新規徴兵者の一部を割いてもらうしかないかと」

 本多海兵本部長の問いかけに斎藤次長は言葉を濁しながら提案した。

「分かった。海軍省にはわしから掛け合う。それから海兵隊としても少しでも志願兵を募れ」

 本多海兵本部長は動くことにした。


 結果的に203高地陥落の報道が功を奏したのもあり、18歳、19歳の志願兵の応募が多かったことから、海軍本体にそう渋い顔をさせることはせずに済んだ。

 それでも、志願制を維持してきた海兵隊にとって、徴兵制に一部を依存ぜざるを得ないという現状は深刻に受け止められた。


 日露戦争後に、海兵隊は志願制を基本としながらも、一部を徴兵制に移行することを決断するのだが、そのきっかけは旅順要塞攻防戦で大量の死傷者を出したことに起因している。

 そして、このことは第1次世界大戦における海兵隊の欧州派兵の際に役立つことになるのである。

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