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第2章ー45

 203高地陥落の報告は第3軍司令部、満州軍司令部には基本的に好感をもって迎えられた。

 203高地を海兵隊が陥落させ、そこから旅順艦隊全てが自沈していることが確認されたことで、連合艦隊司令部を中核とする海軍本体からの旅順要塞陥落よりもまずは旅順艦隊壊滅を優先しろという横槍を完全に封じることが出来たからである。

 これで旅順要塞陥落に専念できる。

 陸軍の幹部の多くがほっとした。


 伊地知参謀長が乃木第3軍司令官に言った。

「これでゆっくりと旅順要塞を攻められますな。最も、もう旅順要塞も末期のようですが。何しろ提督が最前線で戦い戦死する有様です。守備兵力も枯渇しつつあるようです」

「うむ」


 乃木大将も表面上では顔をほころばせたが、内心では異なる感情を抱いた。

 その代り、海兵隊は完全に壊滅した。

 旅順攻防戦開始以来の海兵隊の死傷者は延べ1万6000人近い。

 しかも、入院せずに済んだ負傷は負傷者に入れていないらしい。

(実際、土方勇志少佐は日露戦争時に無傷で帰還したことになっており、家族から額の傷痕が戦傷によるというのは嘘だと思われる羽目になった)


 約1万7000人いた海兵師団は文字通りほぼ全員死傷したのだ。

 林忠崇中将には感謝してもしきれないという想いとこれだけの死傷者を出してまで海兵隊が奮戦してくれたことに対する敬意と犠牲者に対する追悼の想いと複雑な感情が乃木大将の心中の中で渦巻いた。

 乃木大将は伊地知参謀長に内心を覚られないように注意しながら話した。

「ともかく、第9師団と第11師団に海兵隊の戦果を生かして望台への攻勢を継続するように伝えろ。後少しで旅順要塞は落ちるはずだ」

「はっ」

 伊地知参謀長の声には明るさがあった。


「言ったとおりだったでしょう。私が行く必要はなかった」

 児玉源太郎大将は言った。

「全くだな」

 大山巌大将も顔をほころばせながら言った。

「約束通り、賭けは参謀長の勝ちだ。総司令官として何をすればいい?」


「海兵師団を引き続き、満州軍の隷下において奉天攻勢に使用したい旨を大本営に進言してください」

 児玉大将は大山大将に言った。

 旅順要塞に対する第3次総攻撃前に大山大将は児玉大将に旅順要塞に対する攻撃を一時的に預けたかったのだが、児玉大将は拒否していた。


 自分はクロパトキンと戦う必要がある。

 旅順要塞は乃木と林がいる。

 あの2人で充分であり、今度こそ203高地は落ちて、旅順艦隊は10日も経たない内に無力化されます、と児玉大将は主張し、大山大将に賭けまで主張したのだった。


 そして、その言葉通り、203高地は陥落し、旅順艦隊は自沈していることが確認された。

 旅順艦隊の自沈は予想外だったが、ともかく旅順艦隊は無力化されている以上、賭けは児玉大将の勝ちだった。

 その勝ちを生かして、児玉大将は大山大将に進言した。


「ほう。何ででごわすか」

 大山大将は首をひねった。

 本当に分からないのか、韜晦しているのか、おそらく後者だろうと児玉大将は推測した。


「樺太攻略作戦等に海兵隊を使われてはかないませんから。乃木大将率いる第3軍と海兵隊の来援は、クロパトキンの目をくらませますよ。奉天での決戦に役立ちます」

 児玉大将は断言した。

 大山大将は力強く肯いた。

 やはり、後者だったな、児玉大将は大山大将の内心をそう推測した。

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