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第2章ー36

 旅順要塞に対する第3次総攻撃前の海兵師団司令部の作戦会議です。

 10月も後半になり、203高地への攻撃準備は徐々に整いつつあった。

 土方勇志少佐は、首を振りながら、あらためて第3次総攻撃のために準備された物資の量を記載した書類の内容を確認した。

 全く父が存命だったら肝を潰したろうな。


 28サンチ榴弾砲用の砲弾6000発(噂では元々は独の青島要塞の砲弾らしい。)を筆頭に膨大な量である。

 本多海兵本部長らがどうやって手に入れたのか、下手に裏事情を全部知ったら命が無い気がする。

 しかも、海兵隊だけでこれだけあるのだ。


 陸軍も併せると遼陽会戦のために投入された砲弾よりも重さだけなら重いのではないか。

 林忠崇中将に言わせれば、海兵隊だけで2000トンの砲弾を8日かけて203高地を中心とする露軍の陣地に叩き込むという。

 土方少佐は内心で思った。

 203高地は更地になってもおかしくない。


 だが、そんなふうに思ったのは、土方少佐だけらしい。

 他の面々は渋い顔をしている。

 土方少佐は海兵師団司令部の面々の顔をあらためて見回した。


「とりあえず10月24日を期して一番時間のかかる28サンチ榴弾砲の射撃をまずは開始します。24時間休みなしで海兵師団用に与えられた6門の28サンチ榴弾砲を1門ずつ露軍の安眠妨害も兼ねて絶え間なく射撃を行い、射撃目標を徐々に変更していきます。なお、坑道作業はこの間にも続けて行い、少しでも203高地への突撃を楽なようにします。そして、11月1日の日の出を期して突撃を開始できるように28サンチ榴弾砲以外の攻城用の重砲も射撃を順次開始して、10月31日の夜は文字通り砲弾の雨が露軍の陣地に降り注ぐ予定です」

 黒井悌次郎中佐が砲撃計画を説明した。


「坑道作業を砲撃中も行うことは構いませんが、できる限り精密な射撃を心掛けていただきたい」

 鈴木貫太郎中佐が口をはさんだ。

 本音を言うと誤射の危険がある以上、砲撃中は坑道作業を兵にさせたくはないのだが、少しでも203高地に接近して突撃を掛けさせる必要があるために仕方なかった。


「内山、実際問題として、これだけ事前砲撃を浴びせれば203高地は無傷で取れると思うか?」

 林中将は参謀長の内山小二郎少将に意見を求めた。

 内山少将は頭を振った。

「8日も事前砲撃を加えるということは、露軍にそれだけ事前に203高地に対する攻撃が行われると警告するようなものです。事前砲撃である程度の損害は与えられるでしょうが、砲撃が止み次第、前線を維持するために後方で待機していた兵が駆け付けてくると考えます」


「2000トンも砲撃を加えて、まだ足りないというのですか」

 土方少佐は言った。

「時間の問題だ」

 岸三郎中佐が言った。

「2000トンの砲弾を浴びせると言っても、1日当たりにすると平均250トンだ。最初の数日はぽつんぽつんとしか砲撃を浴びせられないしな。多分、露軍も砲撃で壊れた陣地を何としても突撃前に補修しようと努力するだろう。そして、砲撃で荒れた地面を我が海兵は迅速に突撃できないが、後方の連絡壕を通じて駆け付ける露兵は速やかに前線に来るだろう」


 林中将が重い声音で締めくくった。

「203高地は何としても取る。だが、おそらく海兵師団は師団の体を成さなくなるだろう。万が一の時は自分も出る」

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