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第2章ー35

 同じ頃、遼陽に置かれた満州軍総司令部では、満州軍総司令官の大山巌大将と総参謀長の児玉源太郎大将が旅順要塞攻防戦の現状について、第3軍の報告書を基に2人で検討していた。


「児玉はんに旅順要塞に行ってもらった方がよかですか」

 大山大将は薩摩なまりの残る言葉で話した。

「私が旅順に行くことは不要です」

 児玉大将は明確に否定した上で続けた。


「乃木大将に任せておけば大丈夫です。あそこには林忠崇中将もいますから。林中将の助言を乃木大将をよく聞くでしょうし。多分、年内には旅順要塞陥落の朗報が届きますよ」

「そこまで楽観して大丈夫でごわすか。約2万人が陸海軍併せて既に死傷しておりもんそ」

 大山大将の脳裏に、東京の参謀本部からの連絡の一部が浮かんだ。


 乃木大将の自宅に投石があったらしい。

 天皇から乃木大将を第3軍司令官から代えてはならぬという勅諚が出ることで、参謀本部内の乃木大将の罷免論が抑え込まれたらしいという話まで出ている。


「第4軍参謀長の上原勇作少将が、まず我が陸軍きっての工兵の第一人者ですが、その上原少将をうならせるような巧みな坑道戦を旅順要塞に対して第3軍は展開しています。それは林中将が育て上げた海兵隊が第3軍の工兵を巧みに指導しているからです。その林中将が203高地に対する突撃を断念したのは、第3軍の報告書を詳細に検討する限り止むを得ません」

 児玉大将はそこで一息入れて続けた。


「満州軍参謀の井口少将等は203高地へ主攻撃を向け、更に第8師団を旅順要塞攻撃に投入すべきとも言っていますが、私は反対です。満州への出発前にも話し合いましたが、旅順要塞に対する攻撃は、旅順要塞陥落が第一目的です。そのことから考える限り、第3軍が望台への攻撃を主攻撃として据えているのは当然のことです。203高地を落としても、それだけで旅順要塞の死命は制せませんが、望台が落ちれば、旅順要塞は陥落します。そして、乃木大将なら3個師団あれば旅順要塞を何とかして見せます」


 それに、と児玉大将は内心で続けて思った。

 旅順要塞攻防戦で事前にはこれ程の死傷者が出るとは思わなかった。

 旅順要塞には露軍は2万人も籠っていないと見積もっていたのだ。

 だが、これまでの戦闘の経緯からすると4万人以上が籠っていたようだ。

 艦隊の水兵まで海軍歩兵として要塞防備に投入したのも一因だろうが。


 それを28サンチ砲隊や独立工兵大隊まで新たに投入したとはいえ、今でも第3軍は6万人に満たない。

 東洋一、世界屈指の要塞を攻めるのに、2倍以下の兵力で速やかに攻め落とせと言うのは困難極まりない話だ。

 とはいえ、これ以上、旅順方面に兵力をつぎ込む余裕はない。


 遼陽から奉天方面に更に兵力が今では必要になってしまったのだ。

 ここは乃木大将に旅順要塞攻略を任せるしかない。

 仮に自分が旅順要塞攻略のために赴いて、旅順要塞攻略を直接指導しても、乃木と林のコンビ(本来から言えば、乃木と伊地知というべきなのだろうが、林中将が事実上、第3軍の参謀長になっているようだ)以上にうまくできるとは思えない。


「とにかく、乃木大将に旅順要塞攻略は任せましょう。満州軍総司令官名で、第3軍の旅順要塞攻略に対する作戦を支持する旨の電報を大本営と第3軍司令部に打ちましょう。大本営から第3軍に対するくちばしを我々は阻止すべきです」

 児玉大将は大山大将に力説した。

「児玉はんがそこまで言うなら」

 大山大将は児玉大将の進言に同意した。

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