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第2章ー30

 金允植外相は、日本国内の要人に朝鮮米の買い占めの実情を伝えた。

 三井物産等を何とかしてくれ、ということである。

 その中には、日本米と偽装された朝鮮米を三井物産に買わされた本多幸七郎海兵本部長も入っていた。


 本多海兵本部長は、情報部を早速動かして、証拠をつかんだ後、わざと下士官から三井物産に問い合わせをさせた。

 下っ端から問い合わせがあれば、当然、下っ端が対応する。

 不正を知らない三井物産の下っ端としては、そんな事実はないという回答を書面でしてしまった。

 本多海兵本部長は、その書面を確認したうえで、海兵本部長名で、三井物産の担当者を呼び出した。


 三井物産の重役は顔色を真っ青にして、海兵本部長室に立ち尽くしていた。

 下請け業者に全部罪を押しつけて、とかげのしっぽ切りで不正がばれても済むはずが、どうにもできない現状がつくられていた。


 後見人ともいえる元老の井上馨に相談したが、事が事である。

 前線で働く兵士の食糧供給に不正があったことを庇えるか、と一喝されてしまった。

 井上にしてみれば、何と馬鹿なことをしてくれた、ということである。

 山県有朋らは既に本多海兵本部長から連絡を受けて激怒している。

 幾ら井上でも、山県らの怒りに正当性がある以上、庇い切れない。


「この不正は会社ぐるみのものだということを認めますか」

「いえ、違います」

 本多海兵本部長の問いかけに、三井物産の重役としては否定せざるを得ない。

 三井物産は不正をしていないという書面回答をしているのだ。

 会社ぐるみの隠ぺいとなると更に大問題だ。


「それならなぜ、朝鮮米の買い付けを三井物産のダミー会社がやっているのですか。正当なことなら三井物産本体がやるでしょう」

「下請けに任せる方が安く上がりますので」

「ほうほう」


 猫がネズミをいたぶるように、本多海兵本部長は三井物産の重役に証拠を示しながら、尋ねていく。

 もう10月が近いのに体から噴き出す汗で持参した手ぬぐいはぐっしょり濡れている。

 三井物産の重役は思った。

 海兵隊相手に不正をするのは絶対に駄目だ。


「いや、よくわかりました。不正はないと考えましょう」

 いきなり、本多海兵本部長は尋問を止めた。

「それにしても朝鮮米の買い付けには節度を持ってもらわないと困りますな。李下に冠を正さずという言葉もある」

「それは重々心得ております」


 三井物産の重役は内心で思った。

 朝鮮米をこれ以上、高値で買いあさるなと言うことか。

 買いあさったら暴露すると言外に言っているのだ。


「それから、海兵隊で買いたいモノがあるのですが、三井物産で仲介してもらえますか。青島で買えると思いますから。値段はこれでお願いします」

「分かりました。それより費用が掛かる場合は」

「愛国心溢れる三井物産でしたら、多少は自腹を切ってくれると思っていたのですが」

 本多海兵本部長の半分独り言に三井物産の重役は泣きたくなった。


「分かりました」

 三井物産の重役は思った。

 本多正信の生まれ変わりという評判は伊達ではない。

 海兵隊に不正をしたら、不正によって得た利益の倍は損をさせられる。

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