表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/120

第2章ー29

 朝鮮米問題は、朝鮮政府にも襲い掛かります。

「また、米の値段が上がりましたか」

 金弘集宰相は閣議の席でため息を吐いた。

 魚允中蔵相も、その横で渋い顔をしている。

 他の閣僚も似たり寄ったりの表情だった。

 今年は、米は豊作で、米の値段が下がるはずだった。

 しかし、秋になり、新米が出荷されようとしているのに、米の値段は上がり続けている。


「本当なら、今の我が国の状況は、閣議の席で祝杯が連日上がっていてもいいような状況なのにままなりませんね」

 金宰相はため息を吐きながらこぼした。

 実際、この9月の時点で、朝鮮政府は余りにもいい状況にあった。


 日本からの要請により、朝鮮が派遣した軍夫は20万人近くに達しようとしていた。

 これによってもたらされる外貨(日本円)は膨大なもので、しかも銀で支払われることもあり、魚蔵相は国の財政が大幅黒字になる現状に目を細める有様だった。


 それに、日露戦争の状況は、日本に有利に動いていた。

 朝鮮国境から遠く離れた現状で、日露間の戦線が築かれている。

 遼陽会戦に日本は(一応は)勝利し、旅順要塞にも一撃を加えた結果、年内には陥落可能と見られる有様だった。


 朝鮮にしてみれば、隣国の大火事の現場は遠く離れていて、しかも離れる方向にその火事は延焼しているという安心できる現状だった。

 細かいことを言えば、ウラジオストック近辺で露と朝鮮は直接国境を接しているが、米英仏が三国干渉の代償として朝鮮の独立を保障している。

 幾ら露が凶暴でも日露戦争の戦況が思わしくない状況で、朝鮮に干渉するほど無茶ではない。

 金政権は安泰の筈だった。


 だが、何事にもその反動がある。

 大量にもたらされる外貨は物価の上昇を招いた。

 デフレに長いこと苦しんでいた朝鮮政府にとってみれば、緩やかな物価上昇はむしろ歓迎したいくらいだったが、ここまで急な物価上昇は却って困るものだった。


 しかも、その物価上昇の中心が穀物、特に米というのが大問題だった。

 魚蔵相は、誰かが米の買い占めを図っているのも一因だと睨んだ。

 問題は誰が?という点だった。

 魚蔵相は調査結果を閣議で報告した。

 その結果に、金宰相たちは顔色を変えた。


「まさか、三井等の日本の商人ですか。厄介ですな」

 金允植外相は頭を抱え込んだ。

「本当に厄介ですな」

 金宰相も苦渋の表情を浮かべた。


 国内の商人なら、政府から圧力を加えればいい。

 しかし、日本の商人は外貨をもたらしてくれるお得意様であり、実際に外貨が米の代価で入ってくる以上はそう簡単に止めさせるというのは、朝鮮政府にとって躊躇われるものがあった。


「仕方ありません。外貨が軍夫から直接入るので、財政に余裕はあります。臨時手当を官吏や軍人に出しましょう。魚蔵相、よろしいですね」

 金宰相は言った。

 魚蔵相も肯いた。


 官吏や軍人の支持が金宰相率いる朝鮮政権の最大の支持基盤だ。

 物価上昇に生活が困窮する官吏や軍人のために臨時手当支出は止むを得なかった。

 ちなみにこれがきっかけで、民間の労働者にも臨時手当要求運動が広まることになり、朝鮮国内の官民労働者の間に臨時手当が広まることになる。


「それから、余りにも米の買い占めが広まるのは困ります。金外相は、日本国内に公式、非公式を問わずに朝鮮国内で米の買い占めが広まっている現状を連絡してください」

 金宰相は金外相に指示した。

「分かりました」

 金外相は言った。


 金外相はある男の姿を頭の中に描いた。

 あの男の腹黒さは一級品だ。

 うまく連絡すれば、あの男はうまく動いてくれるだろう。

 ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ