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第2章ー22

 旅順要塞守備隊の幹部が集まった会議は、旅順要塞に対する第1次総攻撃を跳ね返したという兵たちの明るさからは程遠い雰囲気で始まった。

 未完成とはいえ、東洋一を自負していた旅順要塞の守備隊の2割以上が初戦で失われたのだ。

 この勢いで守備隊が損耗して行ったら、クリスマスまで旅順要塞が持ちこたえることはできない。

 第1次総攻撃前は来春までは旅順要塞は持ちこたえられるという楽観的な見方が旅順要塞守備隊の幹部の大勢を占めていたが、今やそう思う幹部は誰一人いなかった。


「反撃だ。反撃しかない」

 コンドラチェンコ少将は会議の冒頭から力説した。

「今回、攻撃を加えてきた日本軍は3個師団ほどだ。未だ兵力数から言えばほぼ互角だ。それに日本軍の方が今回の攻撃で損害が大きいはずだ。即時反撃を加えることが可能だ。それによって、少しでも旅順要塞を延命させるのだ」


「反撃を加えるとしてどうするのだ」

 旅順要塞守備隊の最高指揮官であるステッセル中将が反問した。

 ステッセル中将の内心では反撃案に反対だった。


 折角、籠っている陣地から出撃する。

 ただでさえ貴重な守備人員が消耗する危険が高い。

 反撃せずに守りに徹するべきではないか。


 だが、反撃案をそう簡単につぶすのは相当でなかった。

 籠城を単に続けると要塞守備隊は士気が落ちがちになる。

 一度、反撃を行なうことで要塞守備隊の士気を高める。

 その観点からすると全面反撃でないなら、検討の余地はあるとステッセル中将は考えた。


「もちろん総反撃はしない。望台方面で2個師団の一部を割き、随意の即時反撃を試みる。攻撃規模は最大でも1個旅団程度だ」

 コンドラチェンコ少将は意見を述べた。

「私は賛成だ」

 旅順要塞守備隊の次席指揮官であるスミルノフ中将が賛意を示した。

 他の会議の参加者からも同意の声が上がる。


 ステッセル中将にもその規模ならよいと思えだした。

「よし、コンドラチェンコ少将にその反撃の準備から実施を委ねる」

 ステッセル中将は、反撃を行うことを裁可した。


 次に話題となったのは、日本軍が203高地に攻撃を加えてきたことだった。

 日本軍の主攻撃は望台方面だけではなく、203高地からも行われる。

 このことは旅順要塞守備隊に難題を突き付けた。

 203高地方面の守備を任されていた露海軍歩兵旅団は第1次総攻撃の結果、1万2000人いたのが7000人程に損耗していた。


 次に補充を受け取った日本海兵隊が第2次総攻撃を加えた場合、203高地はまず陥落するだろう。

 だからといって、そう簡単に203高地は放棄できなかった。

 制高点としての重要性に加え、戦場心理的に死守に成功した拠点を放棄することは守備兵の士気に影響を及ぼす。

 だが、203高地に永久堡塁はない。

 守備の面で不安があるのは否定できなかった。


 会議の列席者からは、203高地を死守すべきか、放棄すべきか、甲論乙駁の論戦が繰り広げられた。

 会議は最終的にステッセル中将の裁断により予備兵力が割ける限り203高地は守備する、つまり基本的に死守するとの結論になった。

 結果論からすれば、日本海兵隊は助攻任務を成功させた。

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