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第2章ー20

 9月1日、旅順要塞に対する第一次総攻撃が始まった。

 乃木希典第3軍司令官は、事前に林忠崇海兵師団長になまこ山、203高地への攻撃に関しては全面的に委任しており、海兵隊は林中将の思いのままになまこ山と203高地への攻撃が可能だった。


 土方勇志少佐の眼前では、なまこ山に対する大砲撃が展開されていた。

 これ程の大砲撃は海兵隊に入隊して以来、土方少佐が初めて見る程のものだった。

 だが、近くにいる内山小二郎海兵師団参謀長はいい顔をしていない。


「弾は少なくとも2倍は欲しかったな」

 内山少将のつぶやきが土方少佐の耳に入った。

「これ程の砲撃を浴びせているのにですか」

 土方少佐は内山少将に問いかけた。


 内山少将は肯きながら言った。

「これだけの弾量では野戦陣地すら崩せん。フランス留学中にそう教わったし、実際、何回か実地に検証した結果でもそうだった」

「こんなに砲弾を浴びせているのに?」


「1門当たり最低1000発はいると林中将も言っていたろう。我々には1門当たり400発しかない。しかもこの後の203高地攻めにも弾は必要だ」

 土方少佐の問いに内山少将は渋面を作りながら答えた。

「だから、400発全部は撃てない。300発がせいぜいだ。後は坑道の効果に期待するしかない」

 土方少佐はあらためて思った。

 これ程の大砲撃で陣地が崩せないなんて、前線の歩兵はたまらんな。


 砲撃は予定通りの時間に終わった。

 海兵師団司令部の計画で、予定通りの時間に砲撃は終わらせて、その後は歩兵(海兵)の突撃に託すことになっている。

 将来は可能かもしれないが、現在は前線の部隊と後方の部隊同士で無線通信を行うことは不可能だし、有線通信設備も整っているとは言えない。

 事前の予定通りに砲撃を終わらせて、前線の歩兵(海兵)を突撃させるしかなかった。


 坑道を活用して砲撃すら煙幕代わりに使い、味方から撃たれる危険を冒し、前線の歩兵は露軍陣地の前面ぎりぎりまで匍匐前進した。

 砲声が止んだ瞬間に歩兵が突撃を開始する。

 坑道の効果も加わり、歩兵が露軍の陣地に雪崩れ込むことに成功する。

 白兵戦が始まった。


 片や元艦隊水兵からなる露海軍歩兵、片や創設以来、白兵戦には絶対の自信を持ち、西南戦争では西郷軍とさえ白兵戦で優勢に戦った日本海兵隊である。

 幾ら陣地に依っているとはいえ、露海軍歩兵の劣勢は明らかだった。

 だが、露海軍歩兵にも意地がある。

 海軍同士の戦いで負けるわけにはいかない。

 その思いが露海軍歩兵を支えていた。


 日露双方に死傷者が続出する。

 なまこ山を巡る死闘は、最終的に露海軍歩兵の撤退により、日本海兵隊がなまこ山を制圧することで終結したが、日本海兵隊側も2000を超える死傷者を出している旨の第一報が前線から届いた。

 最終的には3000は超えそうだ、土方少佐は思ったが、林中将は攻撃中止を下令しない。


「海兵第1旅団は予定通り、203高地を攻撃せよ」

 林中将は下令した。

 土方少佐は思った。

 昨日の話は本当だった。

 林中将は旅順要塞攻略のために日本海兵隊をすりつぶす覚悟なのだ。

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