第2章ー17
林中将と鈴木中佐の会話を聞きながら、海兵師団司令部の面々もそれぞれが203高地攻めをすべきか否かをあらためて考え始めた。
土方少佐もその一員だった。
ここで悩ましいのは、海兵師団の隷下にある2個海兵旅団の旅団長の意見が食い違っていることだった。
海兵第1連隊と第3連隊を隷下においている海兵第1旅団長の中村覚海兵少将は203高地も攻めるべきだと言っていた。
今ならまだ203高地の守備が固められていない公算がある。
それに助攻の任務を確実に遂行するためにも203高地への攻撃はむしろ必須との意見だった。
一方、海兵第2連隊と第4連隊を隷下においている海兵第2旅団長の一戸兵衛海兵少将は203高地攻めに反対していた。
203高地は次の第二次攻撃で確実に落せばよい。
なまこ山への攻撃で助攻としての任務は十分果たせるとの意見だった。
中村少将も一戸少将も西南戦争以来の戦歴を誇る実戦経験者である。
だが、日清戦争での戦歴を顧みる限り、一戸少将の方がわずかに戦の腕は上と言うのが海兵隊内部の評価だった。
「だからこそ困るのだ」
土方少佐は思索を巡らせた。
これが逆ならば、林中将も203高地攻めを決断しやすかった。
一戸少将に203高地攻めをさせて、無理そうならばすぐに打ち切ればよい。
一戸少将の腕ならば確実に戦機を見極めてくれるだろう。
だが、中村少将だと頭に血が上って203高地に拘り過ぎて引き際を誤るのではないか、それを林中将は懸念している。
かといって、一戸少将に203高地攻めをさせるわけにはいかない。
203高地攻めに一戸少将は反対している。
203高地攻め賛成の中村少将に203高地を攻めさせず、203高地攻め反対の一戸少将に203高地を攻めさせては、幾ら一戸少将でもへそを曲げるだろう。
そして、もう一つの問題が兵の問題だった。
陸軍が第1師団と第7師団、第8師団の満州派遣を遅らせているのも、海兵隊が絡んでいた。
何だかんだ言っても海兵隊は戊辰戦争の影響を未だに受けており、主な志願兵の基盤は北海道、東北、関東だった。
ともかく海兵隊のために第7師団が最大の影響を受け、第1師団や第8師団も影響を受けていた。
兵として優秀な素質のある者は18歳で海兵隊に志願してしまう、陸軍は海兵隊にしばしば苦情を言っていた。
海兵隊が不合格にした者が陸軍に入るという噂が公然と流れるのが第7師団の実態だった。
第1師団や第8師団も似たり寄ったりだった。
第2師団は徴兵人口が多いので何とかなっているが。
その優秀な兵をそうそう失うわけにはいかない。
203高地が無理攻めになって大量の死傷者を出したら、補充に海兵本部は頭を抱え込むことになるだろう。
ただでさえ、平時は増強連隊規模の海兵隊を戦時だからということで師団規模に拡張しているのだ。
203高地を攻めるべきか否か、土方少佐は思索を巡らせた。
「ちょっと全員で話し合うか」
林中将が言った。
それを機に海兵師団司令部で林中将を中心に参謀同士が203高地攻めについて話し合いを始めた。
話し合いは半日ほど続いた。
結論については少し後で明かします。
次は露軍側の視点の話です。
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