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第2章ー14

 黄海海戦は終わった。


 旅順艦隊の旗艦「ツェザレウィチ」は、夜の間に生き残りの乗組員が悪戦苦闘して、何とか操舵可能の状態に回復した。

 だが、(皮肉にも)ウィトゲフト提督の遺命が乗組員に届いていなかったこともあり、ドイツが租借していた青島への逃亡を生き残りの乗組員は決断した。

 そして、青島で「ツェザレウィチ」は投降し、乗組員たちにとって日露戦争は終戦することになった。


 また、ウィトゲフト提督は、自らの意見を詳細に書簡に認めたうえで、その書簡を旅順港出航前に1隻の駆逐艦「レシテルヌイ」に託した。

「レシテルヌイ」は黄海海戦の混乱に乗じて、ドイツの事実上の支配下にあったチーフーへ向かい、無事にたどり着くことには成功したが、日本海軍に捕獲されることになった。

 だが、「レシテルヌイ」が試みたウィトゲフト提督の露本国に対する意見陳述は成功し、アレクセーエフ総督の解任がその後で行われる一因になった。


 最終的に、黄海海戦において、旅順艦隊は戦艦1隻と駆逐艦1隻を喪失、残りの艦船は全て旅順港へ帰港する羽目になった。

 また、帰港に成功した艦船の多くが被弾しており、旅順艦隊の各艦が装備していた艦載砲の大部分に何らかの損傷が生じていた。

 だが、ウィトゲフト提督の遺命があったおかげで、旅順艦隊の乗組員の多くが黄海海戦を生き残り、旅順要塞攻防戦に参加することになったのも事実だった。


「海軍の名誉と祖国か、どちらが大事なのか。これまでは考えたことが無かった」

 今や旅順にいる露海軍の最高指揮官となったウフトムスキー提督が独白した。

「自分も同じです」

 副官が、自分に対する問いかけと誤解して答えた。


 ウフトムスキー提督は、その答えに無言のままで微笑して答えた。

「さて、旅順艦隊は解散した。我々は旅順艦隊の乗組員を主に活用して、海軍歩兵旅団を臨時編制することになった。私は海軍歩兵旅団長だ。どこまでやれるかな」

 提督は、副官に問いかけた。


「詳細は、各艦からの報告をまとめた上でないと分かりませんが、人員だけなら中々のものです。我々は少なくとも1万人以上、多分1万2000人ほどいます。旅団どころか、師団を名乗ろうと思えば名乗れます」

 副官の報告に提督は目を細めた。

「それは大したものだ」


「装備する火砲も本来なら大したものでした。例えば、戦艦のセヴァストポリ1隻だけで12インチ砲4門、6インチ砲12門、3ポンド砲12門、1.5インチ砲28門、2.5インチ砲2門が搭載されているのですから。戦艦6隻を含む旅順艦隊の艦船全ての艦載砲を旅順要塞防衛につぎ込んでいたら、旅順要塞は火力の面で難攻不落と化していたでしょう」

 副官は力説した。


「全くだな」

 提督は、ふと目をそらして窓の外を見た。

 空は青空だ。

 だが、提督の目には雲がかかって見える気がした。


「だが、あの(黄海)海戦のせいで、海軍歩兵旅団の火砲の大半は失われた。死んだ児の歳を数えても仕方がないが無念だな。だが、我々は最善を尽くそう。祖国のために」

 提督は半分独り言を言った。

「私も同感です。海軍軍人が海の上で死ねないのに心残りはありますが、祖国のためです」

 副官も半分独白した。

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