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第2章ー4

「そもそも旅順要塞の守備隊についてはどれくらいの数と陸軍は見積もられているのでしょうか」

 林海兵中将は反問した。

「せいぜい2万人だと見積もっている。旅順要塞の規模からの推定値だが」

 伊地知参謀長が答えた。


「考えが甘すぎます。少なくとも旅順要塞の守備隊は3万人はいます。更に旅順にいる露艦隊の水兵から陸戦部隊を編制して要塞防衛線に投入すれば4万人近い守備隊が編制可能と海兵隊では推算しています」

 林海兵中将は言った。


 旅順要塞に運ばれる物資の量は誤魔化しようがない。

 旅順に運び込まれる物資の量は、旅順港に入港する船舶数や旅順へと運行される鉄道の編成数から推測可能だ。

 そして、それだけの物資が継続的に必要と言うことは、それだけ旅順に人員がいるということだ。


 海軍軍令部第3局はその能力を駆使して、旅順要塞の守備隊数を割り出していた。

(だが、実際にはこれでも甘く見積もっていて、旅順要塞開城後に林中将は背筋を冷たくし、海軍軍令部第3局は情報見積もりのやり方をあらためて見直すことになる)


「ちょっと待て。我々の手元兵力は海兵師団を含めても3個師団余りだ。6万人程しかいないのだぞ」

 乃木第3軍司令官は声を荒げた。

「そういうことですが。何か問題が」

 林中将は答えた。


「大有りだ。露軍が東洋一、世界屈指の要塞と豪語する要塞を2倍以下の兵力で一刻も早く落とせというのか。大本営は」

 乃木大将は声を荒げたまま言った。

 他の陸軍士官も顔色を急変させている。

「大本営からはそう言って来ているのです」

 林中将は言った。


「無理を言うな」

 伊地知参謀長も発言した。

 他の陸軍士官も私語を交わしだした。


「大本営の指導に従い、第3軍が砲弾不足のまま旅順要塞に急襲を試みるならば、第3軍は文字通り全員草生す屍となるぞ。それでも旅順要塞は陥落せんだろう」

 乃木大将は言った。

「そうなります」

 林中将は言った。

 乃木大将は黙って考え込んだ。


 乃木大将が黙考している時間は長かった。

 その間に時計の短針が動いていた。

「第3軍司令官として、次のような命令を出す」

 長い沈黙を破って、乃木大将は言った。


「旅順要塞に対しては、海兵隊案に従い、工兵を活用した攻撃方法によるものとする。歩兵の急襲はできる限り禁ずる。堡塁等に対しては、坑道を活用することによるできる限り接近しての歩兵突撃戦術や、工兵による爆破戦術を駆使して対処する」

 会議に同席している陸軍の士官も次々と首肯した。


「しかし、この方法だと海軍本体が文句を言わないか」

 伊地知参謀長が心配するような声を挙げた。

「海軍本体というか、連合艦隊にとっては、旅順にいる太平洋艦隊が壊滅すればよいのでしょう」

 内山海兵師団参謀長が発言した。

「方策は考えてあります。うまく行けば、8月中には旅順にいる太平洋艦隊は旅順から出ていくか、大損害を被っているはずです」


「海兵隊は魔術師が揃っているのか」

 乃木大将は言った。

「魔術師はいませんな。ただ速やかに旅順要塞を落としたいだけです」

 林中将は言った。

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