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第2章ー1 旅順要塞攻防戦

 第2章の始まりです。

 時間が少し流れて、1904年8月になっています。

「旅順要塞について想像するのと実際に旅順要塞を見るのとではやはり印象が違ってきますね」

 土方勇志少佐は言った。

「気持ちは分かるがな」

 昇進したばかりの岸三郎中佐も同意した。

 2人は将校斥候として旅順要塞をできる限り接近して双眼鏡で観察していた。


「実際問題として、海兵の急襲により旅順要塞を落とせると思いますか」

「不可能だな」

 土方少佐の問いをあっさりと岸中佐は切り捨てた。


「機関銃を防御用の兵器として使うとはな。我が海兵隊の機関銃についての運用方法に誤りがあったのを思い知らされた。機関銃は攻撃用の兵器だと我が海兵隊は考えて、その前提を基に機関銃の整備を進めてきて、更に運用法もそれを前提に考察していた。だが、鴨緑江や南山の戦いでの露軍の機関銃の活用法を見聞する限り、機関銃は防御用の兵器として使うべきだ。そして、その機関銃が要塞堡塁に据え付けられて続けられる限りの銃弾を攻撃側に浴びせられたら」

 そこで、岸中佐は一旦、言葉を切った後で続けた。


「それを突破して要塞堡塁を攻撃側が落とすことは不可能だ。そして、露の旅順要塞守備隊は機関銃を多数装備して我々を待ち構えていると考えるべきだ。林提督が言うように300年以上前の古い方法に逆戻りした要塞攻撃方法で、我々は旅順要塞の堡塁を落としていくしかない」

 岸中佐の返答に、土方少佐も気が重いながらも肯かざるを得なかった。


 1904年の8月になり、季節は猛暑から少しずつ暑さが和らぎつつある気がしなくもなかったが、日露間の熱戦は相変わらず続いていて、むしろより熱くなりつつあった。

 第3軍以外の日本軍主力は遼陽に迫りつつあった。

 8月中に遼陽で日露の一大会戦が行われるだろう。

 そして、第3軍は旅順要塞に迫りつつあった。

 旅順要塞攻略について拙速を選ぶべきか、巧遅を選ぶべきか、第3軍の決断は迫られていた。


「どうだった、旅順要塞の弱点は見つけられたか」

 将校斥候を終えて、海兵師団司令部に戻ってきた岸中佐と土方少佐に、海兵師団長を務めている林忠崇海兵中将は声をかけた。

 二人とも林中将の問いに頭を振らざるを得なかった。


 それくらい、旅順要塞の防備に隙を2人共見つけられなかった。

 林中将も2人から答えが返ってくることは特に期待していなかったのだろう。

 黙って2人の仕草に肯いた後は林中将は考え込むだけだった。


「自分自身も実際に見聞したし、海兵師団司令部の参謀もこれで全員が旅順要塞の現状を見聞したが、やはり旅順要塞に明確な弱点は見つけられない」

 林中将は思索を巡らせた。

「そして、海兵隊は兵を無駄死にさせる余裕はない」

 林中将は更に考えた。


 海兵隊は全員志願制である。

 そのために兵への応募も18歳から認めているくらいである。

 徴兵制施行の際に、海兵隊は兵の募集については徴兵制除外を嘆願した。

 陸軍から弱兵を押しつけられることを懸念したからである。


 それに海兵隊は小規模であったし、元幕府の旗本、御家人層や都市の貧民層(皮肉にもかつての幕府歩兵隊の志願者の多くと重なっていた)からの志願者で十二分に海兵隊の人員を賄えていたという現実があった。

 だが、それが今回の戦争では弱点になっていた。

 海兵隊で死傷者を続出させていては、あっという間に兵員不足に苦しむ羽目になる。

 陸軍の一部が言うように、火力不足は肉弾で補うことは、海兵隊には不可能だった。


「となると、次のような方策を講じるしかない」

 林中将は腹案を固めた。

 第3軍司令部の会議で、提案しよう。

 そして、何としても第3軍司令部に納得してもらおう。

 林中将は決断した。

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