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第1章ー1 旅順への道

 1904年1月初め、世間ではお屠蘇気分がまだ抜けない頃にも関わらず、気分が重いことから土方勇志少佐は旅順要塞攻略作戦の会議の席で、何度目かのため息を吐いた。

 それを聞きつけた林忠崇軍令部第三局長は叱責するかのような目を向けはしたが、自分も同感なのだろう、言葉には出さなかった。

 日露間の緊張は高まる一方であり、軍令部第三局の内部では何日から日露間で戦争が始まるのかという段階に到達していた。


 最大の問題点は、と土方少佐はあらためて考えを巡らせた。

 陸軍、海軍それぞれが日露開戦後の行動について思惑を巡らせていて、統一的な軍事作戦を立てられていないということだ。

 その最大の象徴が旅順要塞に対する作戦だった。


 児玉源太郎中将に言わせれば、

「旅順要塞を海兵隊が取り囲むのに必要な竹矢来の量を言ってくれ、それくらい陸軍が調達してやる。それで旅順要塞はおしまいだ」

 というのが、陸軍の旅順要塞に対する作戦の結論だった。


 実際、陸軍の基本戦略から言えば間違っているとは言い切れない。

 旅順要塞を封鎖して補給を断ってしまえば、旅順要塞は兵糧攻めで自滅してしまう。

 それには1年以上かかるかもしれないが、その間は海兵隊が旅順要塞を看視すればよい。

 日本陸軍主力は遼陽なり、奉天なりでロシア陸軍主力と雌雄を決して大勝利を収めて、それで、日露戦争は日本の勝利で終わりだ。

 陸軍の基本作戦はそういうことだった。


 一方、海軍の作戦は全く異なっていた。

 旅順港に展開するロシア太平洋艦隊主力(旅順艦隊)とバルト海から日本に向かってくるバルチック艦隊が合流して、日本海軍と決戦を挑む事態が生じたら、日本海軍の2倍近い戦力になり、日本海軍は敗北必至の状態に陥る。


 それを避けるためには、旅順要塞によって守られた旅順港を閉塞して、旅順艦隊の出撃を不可能にする必要がある。

 だから、旅順港閉塞作戦は必要不可欠というのが海軍の論理だった。


 旅順艦隊を出撃不能にすることで、バルチック艦隊単体のみと日本海軍は雌雄を決することになる。

 そこにウラジオ艦隊が加わるかもしれないが、戦力的にはたかが知れている。

 この状態になれば、日本は必勝態勢を築ける。

 だが、閉塞作戦が万が一(!)失敗した場合には、海兵隊による旅順要塞攻略作戦を発動するというのが、海軍本体の考えだった。


 海軍本体の考えを示された海兵隊は、早速、旅順要塞攻略作戦の検討にかかったが、すぐに旅順要塞攻略は海兵隊単独では不可能という結論に達した。

 海兵隊の兵力は最大動員時でも1個師団に過ぎない。

 その兵力で東洋一、いや世界でも屈指の防御力を誇るとロシアが豪語する旅順要塞を海兵隊が単独で落とせるという考えにはどうにも無理があった。


 林中将にいわせると、大坂冬の陣の際の大坂城を10万人で無理攻めして1月で落としてくれというのと同じレベル、いや、そっちの方が楽勝だな、というレベルの考えだった。

 軍令部第三局は、米西戦争を観戦してきた柴中佐等に旅順港閉塞作戦の成否を検討させたが、旅順港閉塞作戦は失敗に陥る公算大というのが軍令部第三局内部の結論だった。

 この結論に海軍本体は猛反発して旅順港閉塞作戦はほぼ成功すると反論した。


 やれやれだ、と土方少佐は天を仰いだ。

 最悪の事態に備えて準備するという軍事作戦の基本さえ、海軍本体は忘れつつある。

 陸軍も同様の楽観論に染まりつつある。

 旅順港に展開するロシア太平洋艦隊主力がバルチック艦隊と合流して日本近海の制海権を握ったら、大陸に渡った日本陸軍主力は補給を切断されて降伏のやむなきに至るのは自明ではないか。

 海兵隊は日露開戦に備えてどう動くべきだろうか。

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