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第1章ー18

 土方勇志少佐に言わせれば、海軍本体が旅順に関する諸問題に意地を張り過ぎにも程があるという一件は、最終的に5月15日に初瀬、八島の2隻の戦艦が触雷して沈没したことにより、海軍本体が陸軍に頭を下げることでけりがついた。

 5月21日に、桂首相は陸海軍が対立した場合の裁断権を行使して、第3軍の編制と第3軍による旅順要塞攻略を正式に陸海軍に命じたのである。

 土方少佐たち、海兵隊の佐官クラスは一様にほっとすることになった。


「桂首相の裁断権も万能ではなかったのですね」

 桂首相の裁断を聞いた土方少佐が述懐した。

 それを更に聞いた鈴木貫太郎中佐がぼやきながら言った。

「陸海軍の主張が対立したときに限り、桂首相の裁断権が行使できるという制限が事実上は掛かっていたからな。海軍本体が問題ないと言って陸軍を頼らずに遂行している作戦に対しては、桂首相は何も言えない」


 土方少佐は鈴木中佐のぼやきを聞いて思った。

 確かに海軍単独で遂行している作戦について、陸軍が容喙できないのは当然だが、それにしても問題が多すぎる。

 首相の手を煩わすことなく、陸海軍内で作戦遂行についてズレが生じた場合には、陸海軍内で話を付けられるようにしないといけないのではないか。

 どうすればよいのだろうか、


 海兵隊に所属していると、海軍本体の下にあるし、海軍兵学校で同期生とは同じ釜の飯を食ったという親近感から海軍に味方したくなるが、冷静に状況を客観的に観測すると海兵隊は陸軍に味方しないといけないことが多い。

 このズレは今は現場調整で何とかなるレベルだが、いずれは大きくなるのではないか。


 そう思った瞬間に、土方少佐は背筋が寒くなる気がした。

 自分は時代の流れに流されつつあるのではないか。

 母は言っていた、父の土方歳三は滅多に大酔することは無かったが、大酔すると愚痴をこぼしていた。

 新選組結成から解散まで、時代の流れが速すぎた。

 新選組が結成された時に幕府が消滅すると思っていた人がどれだけいただろう、そして、新選組があのような流れを辿り、自分が死に水を取る羽目になるとどれだけの人が思っていたろう。


 父は酔い過ぎると母にそう言っていたと聞いている。

 父は西南戦争で自分が死に水を取った新選組を事実上再結成して、城山の戦いで散って行った。

 結局、父は時の流れに流されてしまった。

 自分は時の流れに流されることなく、付いていけるのだろうか。

 土方少佐はそんなことを考えざるを得なかった。


 一方、桂首相の裁断を聞いた林忠崇軍令部第三局長は意気軒昂となった。

「これで、陸軍と海兵隊で協同して旅順要塞攻略作戦を発動できる。児玉参謀次長とも話をしないといけないな。それにしても、陸軍内の対立には困ったものだ」


 実は、この頃、陸軍内では満州に陸軍の高等司令部(後の満州軍総司令部)を設置するかどうかを巡って対立が生じていたのである。

 最終的に6月に満州軍総司令部が設置されて、満州軍総司令官に大山巌陸軍大将が任命されることにより陸軍内の対立は収拾されることになるのだが、陸海軍の対立のみならず陸軍内の対立が生じる等、1904年5月は海兵隊にとって多難な月になった。

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