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第1章ー17

 5月10日前後の状況です。

 第1軍が鴨緑江を無事に渡河し、第2軍が紆余曲折のあった後で塩大澳に5月5日に上陸する等、陸軍の進撃が進捗する一方で、海軍の攻撃はうまくいかなかった。

 5月3日に最後の賭けとして行われた第3回旅順港閉塞作戦も結局は失敗に終わった。

 5月10日、海軍軍令部第三局では、林局長を議長として、旅順要塞攻略についての作戦研究会議が開催されていた。


「まだ、第三軍の編制については内示段階なのですか」

 会議に参加している鈴木貫太郎中佐は呆れたような口調で話した。

「海軍本体が頑固でな」

 林局長は諦めたような口調になっていた。


「ここまで失敗しているのだから、速やかに陸軍に頭を下げないといけないだろうに。海兵隊が先走り過ぎたせいで、海軍本体が意固地になってしまったみたいだ。過ぎたるは及ばざるがごとしとはよく言ったものだ」

「しかし、ここまで来た以上は、第三軍を可及的速やかに編制して旅順要塞を攻略するしかないでしょうに」

 土方勇志少佐も鈴木中佐に加勢した。


「自分もそう思う」

 林局長も肯いた。

「最後の賭けとして行われた第3回旅順港閉塞作戦に失敗した以上は、第三軍を編制して旅順要塞を攻略しようとすることで、旅順にいる露太平洋艦隊をいぶり出して、海上で露太平洋艦隊と我が海軍が雌雄を決して勝利を収める。そして、バルチック艦隊を迎撃するしかない」


「露太平洋艦隊は臆病ですからね」

 黒井悌次郎中佐が揶揄するような声を挙げた。

「マカロフ提督が3月31日に戦死したために出撃意欲を失ったようですな」


「単純にそうとばかりは言えないだろう。そもそも旅順に艦隊の燃料の石炭がどれだけ備蓄されていたのかが疑問だ。それに石炭の補給が十分に期待できない現状では、積極出撃策を露太平洋艦隊は採りたくても採れないのかもしれない」

 鈴木中佐が諌めた。


 それに土方少佐たちも肯いた。

 中佐クラス以下の海兵隊士官は全員が海軍兵学校出身である。

 海軍士官の基礎を一応は叩き込まれている。

 石炭という燃料無くして現在の海軍は存在しえない。


「実際問題として、軍令部第三局の情報部の情勢分析はどうなっているのです?」

 黒井中佐が尋ねた。

「旅順要塞が完全に完成している公算は低いというのが情報部の判断だ。だが、現在の防御力でも中々手に余る存在と見ている。そして、シベリア鉄道の能力から兵員輸送等に輸送力のかなりを振り向けざるを得ず、旅順には石炭等の補給物資が十分に届いているかどうかも疑問があると情報部は分析している。だが、公開情報を元にしての推論だからな。海軍本体を説得し切れていない」

 林局長は顔をしかめながら言った。


 軍令部第三局の情報部は初代部長を務めた吉松中佐(当時)以来、公開情報を重視している。

 公開情報を基にして分析しきれるのか、という反論もあるが、独自予算が無い海兵隊にとっては公開情報の分析に依存せざるを得ないというのが実情だった。

 だが、逆にそれによって分析能力に長けることになっており、情報部に3年も在籍した後に相場師に転職したら超一流の腕前になれると陰口を叩かれる程の存在になっていた。


「情報部がそこまで言うのなら間違いないとは思いますが、早く第三軍を編制して旅順要塞攻略に取り掛かるべきですね」

 鈴木中佐が言った。

 他の面々もその言葉に肯いた。

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