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第1章ー16

「河を盾にしての防衛戦が成功することは珍しいのだが、どうしても河を防衛線として考えてしまうものだな」

 4月30日朝、第1軍司令官の黒木将軍は、藤井参謀長に言っていた。

「全くですな。ですが、河を防衛線とすることには問題点があります。その最大の問題が、渡河点を攻撃側が選べるのに対し、防衛側は渡河点の全てを守らないといけないことです」

 藤井参謀長は答えた。


「さて、我々は鴨緑江を渡河できる態勢かな」

「ご安心を」

 藤井参謀長は黒木司令官の問いに答えた。


「第2師団が左翼から、近衛師団が中央から、第12師団が右翼から露軍に攻撃を加える準備が整っています。先日、海軍の砲艦が鴨緑江河口方面に対する砲撃を行ったことから、海兵師団が鴨緑江河口付近に奇襲上陸すると、我々が対峙している露陸軍の司令官は判断したらしく、兵力のかなりの部分を河口方面に割いています。我々の正面にいる露陸軍の兵力は我々の半分以下でしょう。重砲による支援射撃準備も完了しています」

 黒木司令官はその答えに肯きつつ言った。

「明日早朝、鴨緑江を完全に渡る。その旨を各部隊に伝達したまえ」


「はっ」

 藤井参謀長の返答を聞きながら、黒木司令官は思った。

 我々に海兵師団がいるからといって、敵前上陸作戦を展開するとは限るまいに。

 海兵師団がいるというだけで敵は幻惑されたな。


「やられた」

 露東部兵団司令官ザスーリッチ中将は呻いた。

 

 4月半ば以来、日本第1軍と露東部兵団は鴨緑江を挟んで対峙してきたが、じりじりと第1軍に東部兵団は押されていた。

 鴨緑江の中洲の幾つかは第1軍に奪取されてしまい、第1軍が鴨緑江を完全に押し渡るのは時間の問題だった。

 第1軍が3個師団に加え野戦重砲部隊も有するのに対し、東部兵団は2個師団に1個騎兵旅団を有するに過ぎない。


 更に悪いことに露の1個師団は日本の1個師団より規模が小さく、東部兵団の実質的な兵力は第1軍の半分より僅かに多いといったところだった。

 先日の日本海軍の砲艦による鴨緑江河口付近の露軍陣地に対する艦砲射撃は日本海兵隊による上陸作戦の前触れだとザスーリッチ中将は判断し、なけなしの東部兵団の兵力から1個旅団を割いて河口付近に部隊を展開した。

 だが、第1軍は正面から鴨緑江を押し渡ってきた。


 更に東部兵団にとって悪いことがあった。

 第1軍との対峙が長引いたことから、日本は第2軍をどこかに上陸させて、そこに露軍の目を集中させ、その虚を衝いて鴨緑江の渡河を図るのではないか、という観測が東部兵団の司令部内に広まっていたことである。


 その観測の奥底には日本陸軍の軽侮が潜んでいた。

 たかが2倍の兵力で我が露陸軍を破ろう等、片腹痛いという感情を露陸軍の多くの士官が奥底に有していたのである。

 だから、日本陸軍は更なる欺瞞作戦を展開するはずという思い込みがあった。


 だが、現実は非情だった。

 次から次へと第1軍は鴨緑江の渡河に成功し、東部兵団の前線は崩壊しつつある。

「全軍、退却しろ。重装備の放棄を許可する」

 ザスーリッチ中将は5月1日午前7時になる前に総退却命令を発出せざるを得なくなった。


 第1軍は鴨緑江の渡河に完全に成功した。

 鴨緑江会戦は東部兵団の死傷者2400名余りに対し、第1軍の死傷者は1000名に満たず、更に東部兵団は全ての火砲を喪失したのに対し、第1軍は鴨緑江渡河という作戦目的を完全に達するという第1軍の圧勝に終わった。

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