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第1章ー14

 場面が変わっています。

 1904年4月初めのパリが舞台です。

 4月初め、パリの高級レストランで60台に見える2人の老紳士が夕食後のワインを楽しんでいた。


「このレストランに最初に来たのは何年前だったかな」

 1人が言った。

「30年以上前になりますね。その時はお互いに尉官に過ぎませんでした。1度、ここの夕食を食べてから日本に行こうと言うことでお互いに奮発して、思い切って入りました」

 相手の方が年下なのか、元部下なのか、言葉が丁寧だった。


「そこまで畏まらなくていい。私と君の仲だ。それにもうお互いに退役した身だ」

 老紳士の1人、シャノワーヌ将軍が言った。

 それを聞いて、相方の老紳士、ブリュネ将軍は微笑んだ。


「このレストランのシェフも最初に来た時からは代わったはずだが、今でも味が変わらないどころか、味が更によくなった気がするな。よい弟子に恵まれたようだ。我々の東の弟子はよい弟子かな」

 シャノワーヌは言った。


「サムライのことならば、あれこそ、我々が誇りにすべき最良の弟子ですよ。1000年近くにわたる長年の伝統を誇り、ショウグンの親衛隊として我々が鍛え上げていくはずが、思わぬ経緯から戊辰戦争のために一時解体されて、海軍傘下の海兵隊になった。ですが、その後も伝統を受け継いで、西南戦争から大規模な実戦に投入されて、日清戦争、義和団の乱と戦い抜いて数々の武勲に輝いています。日本の海兵隊はまさに現代に生きるサムライ達ですよ」

 ブリュネの声に熱が入った。


「指揮官の評価はどうか」

「我々が直接指導した滝川充太郎達は亡くなってしまいました。大鳥圭介は退役しています。ですが」

 ブリュネは一度、言葉を切った後で続けた。


「林忠崇が健在です。あの土方歳三の薫陶を受けて、我々の誇るサン・シール士官学校とフォンテンブロー砲工学校で優秀な成績を修めた指揮官です。彼の海兵隊における軍歴はご存知でしょう」

 そういった後でブリュネは思わず瞑目した。


 土方、君とは短い付き合いだったが、本当に印象に残る真の友だった。

 幕府諸隊の降伏の説得と言う嫌な役目を君が共に遂行してくれたおかげで、幕府諸隊の優秀な人材が遺され、海兵隊は多くの人材を迎え入れることができた。

 君と日本酒を酌み交わして、いつか、フランスに君が来た際にはフランスの名酒を共に酌み交わそうと約束したが、西南戦争で君が戦死したために、永遠にそれは果たせない約束になってしまった。


 君が戦死したときに、雨のためにシャスポー銃は撃てなかったと林から聞いた時は思わず号泣したものだ。

 林から、軍人として刀で戦い、名誉の戦死を土方提督は遂げられたのです、土方提督にとって本望だったと思いますよ、とは言われたが、今でも心の中で痛みと共に思い返してしまう。


 シャノワーヌは、ブリュネが瞑目したのを見て、ブリュネの内心を察したのか、黙ってワインを呑んだ後で、自分も瞑目した。

 しばらくして目を開けたブリュネは言った。


「林は我々が苦戦を強いられた清仏戦争における清国の名将、劉永福を3分の1の寡勢で台湾攻略の際に打ち破る等、不敗を誇る名将です。優秀な部隊を名将が率いている。同数ならば、林が率いる日本の海兵隊は世界最強の部隊でしょう」

「えらく高評価したものだ」


 シャノワーヌは微笑むだけにしたが、内心では同感だった。

 我々にとって日本の海兵隊は誇るべき最良の弟子だ。

 そして、林は名将だ。

 林の率いる海兵隊が戦場で敗けることは無いだろう。

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