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第1章ー13

「黒木将軍は鴨緑江を越えるために出立しましたか?」

 3月下旬のある日、金弘集宰相は閣議の席で禹将軍に尋ねていた。


「第12師団に加え、第2師団、近衛師団が集結するのを待っていたために時間がかかりましたが、黒木将軍は第1軍を率いて鎮南浦から平壌を経て安東を目指して既に出立しています。4月半ばには鴨緑江を越えて満州へと向かうでしょう。ただ、鴨緑江渡河を阻止するために露陸軍が続々と集結しています。おそらく日本陸軍と露陸軍が初めて銃火を交わすのは鴨緑江になるものと推測されます。それから海軍の動向をついでに申し上げるなら、日本海軍の旅順港の第1次閉塞作戦は失敗、近日中に再度、旅順港閉塞作戦が試みられるのではないかと推測されています。旅順の露艦隊は引き籠っていますが、ウラジオ艦隊は積極的に出撃しており、既に日本の商船を沈めています」

 禹将軍は答えた。


「軍夫は10万人を確保しましたが、まだ集めてほしいと日本政府から要請が来ています。推測ですが、日本政府としては軍夫を朝鮮人で基本的に賄いたいのでは」

 魚允中蔵相が言った。


 金允植外相もそれに肯きながら言った。

「1人でも多くの日本人を兵として動員したいですからね。それに日本政府は人件費を安く上げたいのでしょう」

「我が国は貧しいですからね」

 金宰相はこぼした。


「日本政府が提示した朝鮮人軍夫の俸給は日本人軍夫の半額です。それでも、所得税として2割を我々朝鮮政府が天引きしても、朝鮮人軍夫の手に入る俸給は、普通の人夫として働くよりも手取りが2倍になります」

「全くかないませんな。気が付けば、そこまで国力に差が生まれていたとは」

 魚蔵相が嘆いた。


「日本人軍夫と朝鮮人軍夫の俸給を同額にするように交渉しましょうか」

 金外相が金宰相に尋ねた。

「止めましょう。そんなことをしたら軍夫として朝鮮人を雇ってもらえません。10万人以上の臨時雇用が生まれるのに、それを潰すことはありません。ただ、軍夫が死傷した際の保障は十分に日本政府がするようにきちんと交渉しておいてください。日本政府が雇用する以上、当然のことです」

 金宰相は金外相に言った。

 他の閣僚も金宰相の発言に肯いた。


「戦争は金がかかるし、人も必要になるものと古来から言われていましたが、軍夫という実戦部隊以外の者だけで10万人以上が必要になるとは。ここまで大規模な戦争になると想像を絶していますな」

 禹将軍が発言した。

「それだけ今の戦争には人も金もかかるものなのです。我々が中立を保てるのはありがたい。日本に糧食等の物資を売りつけ、人も雇ってもらえるのですから。戦争は良くありません。平和が一番です」

 その戦争で祖国を豊かにしようとしている金宰相は言った。


 禹将軍は内心で思った。

 本当に黒い冗談だな。

 隣国の戦争で儲けようとしているのに、平和が一番と言えるとは。

 いや、外国と交渉しようとするなら、これくらい黒くないとやっていけないものなのかもしれない。

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