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第1章ー12

 日本軍の先遣隊である第12師団が鎮南浦に上陸したのは、2月22日のことだった。

「朝鮮政府が親日派で固められていて助かったな」

 第12師団と同行していた第1軍の司令官である黒木為楨大将は独り言を言った。

 朝鮮政府が反日派に日露開戦時には占められていた場合、まずは仁川に上陸して漢城に進軍、朝鮮政府を無理矢理従わせた後で朝鮮半島を北上していくことになっていた。


 幾ら、金弘集政権が軍の支持の下で盤石のように見えても、民衆レベルでの反日は根深い。

 朝鮮軍の大勢は金弘集政権支持とはいえ、軍の一部は反日派もおり、クーデターの可能性が0ではないと参謀本部は判断していた。

 その場合のための作戦計画さえ実働可能なように立案されていたくらいである。

 実際に日露戦争が勃発した際に金政権が健在で、日本に対して後方支援を表明しているというのはありがたいことだった。


「それにしても10年前よりも道路事情が多少なりともよくなっているようで助かります」

 黒木大将の傍にいた第1軍の参謀長の藤井茂太中将が言った。

 朝鮮政府の協力もあり、日本軍は朝鮮半島の精密な地図を日露戦争に備えて作成済みだった。

 その作成過程で、朝鮮半島の道路事情がそれなりではあるが、日清戦争時よりも改善されていることが判明していた。


「そこは駐朝公使時代の小村外相に感謝だな」

 黒木大将は顔をほころばせながら言った。

「全くですな」

 藤井参謀長も同意した。


 朝鮮半島の開発について、小村公使(当時)と金政権は対立した。

 朝鮮半島の開発のために鉄道整備を主張した金政権に対し、小村公使は道路をまず整備するべきだと主張した。


 小村公使の目からすれば、朝鮮半島の現状では貧困なことから、鉄道を整備しても旅客・貨物両方の収益が得られずに鉄道維持のために税金をつぎ込まざるを得ず、却って朝鮮半島開発の足を引っ張ると主張した。

 それに朝鮮半島全土に鉄道を張り巡らせるだけの資金もない以上、鉄道を敷設する一部の土地だけが建設の際に潤うだけになる。

 それよりも現状の道路を拡幅し、雨が降ってもすぐにぬかるまないように改善することに務める方が少ない資金の有効活用になり、道路整備のために日当を支払うことで貧農対策にもなると主張した。


 金政権は鉄道整備を強行したがったが、資金はともかく技術面で日本の協力が得られないと鉄道整備は困難で、小村公使の主張を受け入れ、道路整備を行うことになった。

 でこぼこだらけで少しでも山に入ると獣道と見まごうばかりになると言われていた朝鮮半島の道路は、主要道路にしかまだ整備が及んでいないが、日清戦争で朝鮮半島を行軍したことのある従軍経験者からすれば、天と地の差があると言われるまで拡幅されて平らになり、水はけもよくなっていた。


「朝鮮政府の手配で、朝鮮人の軍夫も揃っています。ただ、軍夫の給料は朝鮮政府を通して全額、銀で払えと朝鮮政府に言われましたが」

 藤井参謀長が言った。

「朝鮮政府も欲深いな」

 黒木司令官は思った。


 朝鮮政府はピンハネする気だな、ま、我々には関係ない話だが、一応、釘は刺すか、後で恨まれてはかなわん。

「きちんと軍夫に給料は支払うように私の名前で朝鮮政府に言っておけ」

「分かりました」

 藤井も黒木の考えを察したのか、にやりと笑って答えた。

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