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第4章ー7

 本多幸七郎海兵本部長は、伊東祐亨軍令部長らにも掛け合い、林忠崇海兵師団長を通じて、大山巌満州軍総司令官からも日露間の停戦を進言してもらった。

 5月1日、樺太全土を日本軍がほぼ制圧したのを受けて、山県有朋参謀総長はバルチック艦隊がウラジオストックを目指さないのならば陸軍としては停戦に応じると発言、伊東軍令部長もそれに同意したため、桂太郎首相はようやく日露の停戦に応じる前提条件を整えることができた。

「まずは第一段階だな。だが、まだまだ先は長い」

 その報を受けた本多海兵本部長は独り言を言った。


「よろしいでしょう。ウラジオストックをバルチック艦隊は目指しません」

 露全権大使のウィッテは断言した。

「日露間は3日後の5月11日午前0時から停戦するということで合意しますね」

 米国務省の担当者は双方に確認した。

「合意します」


 小村寿太郎外相はそれを認めた。

 ウィッテもそれを認めた。

 5月14日、カムラン湾からバルチック艦隊は出航、当初は南に向かうのが、カムラン湾の住民やフランス人の役人に目撃された。

 だが、その後で5月19日にバシー海峡で国籍不明の艦隊を目撃したという情報が、5月22日になって東京の軍令部に届いた。

 軍令部は騒然となった。


「おい、バルチック艦隊は本当に帰国しているのか」

 伊東軍令部長は腹立たしげな態度を示して、軍令部員に情報の確度を検討させた。

「たまたま商船員の1人が夜間に見ただけですので、誤認の可能性もありますが、明らかに戦艦だったということからするとバルチック艦隊の可能性が」

 軍令部員の1人が恐る恐る発言した。

「露め、謀ったな」

 伊東軍令部長は激怒した。


「やはりな」

 その情報を聞いた本多海兵本部長はにやにや笑いながら言った。

 斎藤実次長は首をひねりながら、本多海兵本部長の顔を見ながら尋ねた。

「分かっておられたのですか」


「分からない方が子どもさ。小村外相は真っ青だろう。露に真実を確認している間に、バルチック艦隊はウラジオストックに入港してしまう。かといって、今の段階で停戦協定を破って、日本が攻撃をバルチック艦隊に仕掛けたら、日本が世界中で悪者だ」

「ウラジオストックに入港しないと停戦協定で決まっているのでは」


「ナホトカに入港すればいいのさ。その後で、不都合があったという理由でウラジオストックに移動すればいい」

「詭弁もいいところではないですか。佐世保に入港しないと言って、長崎経由で佐世保に入港するようなものですよ。停戦協定破りです」


「だが、東郷平八郎連合艦隊司令長官は国際法に通じている。国際法違反を自ら犯すようなことはしないからな。大体、バルチック艦隊が日本海に入っていけないとは停戦協定のどこにも書いていない」

「酷い話だ」

 斎藤次長は吐き捨てた。


 5月27日、バルチック艦隊は悠然と対馬海峡を通過した。

 せめて、日本の領海に入れば、と連合艦隊が監視したが、公海を公然と通られてはどうにもならない。

 小村外相がウィッテ全権大使にバルチック艦隊のこの行動を抗議すると、ナホトカで補給等を行い、北極海経由でバルチック艦隊はリバウに戻るように露海軍省は指示したとウィッテ全権大使は抜け抜けと回答した。


 いつリバウに向かうのか、という問いに対しては補給や整備が完了次第、と回答する始末。

 日本海に入らないという停戦協定にすべきだったと後悔したが、それならバルチック艦隊は解散し、ウラジオストック艦隊に配属替えになったと言いぬけるだけだろう。

 停戦協定を悪用された、露の老獪な外交にしてやられた、と小村外相は臍を噛んだ。

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