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第4章ー6

 露からの停戦申し入れを、日本政府は即座に受け入れられなかった。

 まだ、樺太占領作戦が終わっていなかったからである。

 それにバルチック艦隊の動向も気になる。

 露からの停戦申し入れは受け入れられないという意見が日本政府内で強いのは当然だった。


 だが、公然と露が停戦を申し入れたという効果は国際的には大きかった。

 日本が停戦を受け入れないのは、日本は本当は講和を結ぶつもりはないのではないか、という観測が世界中に広まる一因になったからである。


「本当に日本は講和を我が国の大統領に斡旋してもらいたいのですか?」

 高平駐米大使にヘイ国務長官は尋ねていた。

 尋ねるというより、その口調は詰問に近い。

「無論です」

 高平駐米大使は即答した。


「では、何故に停戦に応じないのです」

「それは樺太攻略戦の真っ最中だからで、このような時に停戦しては露を利することになります」

「露の停戦申し入れを速やかに日本が受け入れないのは、日本は講和の意思がないからなのではないか、という疑念が我が国の世論に広がっています。このような疑念が広まっては、我が大統領と言えど日露間の講和の斡旋が困難になります。速やかに善処されることを望みます」

「分かりました。本国に伝えます」

 高平駐米大使は春にも関わらず、汗を拭きながら国務省を出る羽目になった。


「停戦を受け入れろだと、樺太攻略戦の真っ最中だ。せめて、樺太攻略が終わってからだ」

 山県有朋参謀総長は主張を曲げなかった。

「バルチック艦隊撃滅までは海軍は停戦に応じられない」

 伊東祐亨軍令部長も停戦には反対だった。

 陸海軍の軍令のトップ2人が反対では、幾ら桂太郎首相でも日露停戦の受け入れの決断はできなかった。


 だが、日本が停戦を受け入れないことは、露の同盟国の仏のみならず、米国等中立国内でも不快感が広まりつつあった。

 英国外務省ですら停戦に応じるべきだと内々に勧告した。

 桂首相は内外からの板挟みになった。

 本多幸七郎海兵本部長が、山県参謀総長を訪ねたのはその頃だった。


「どっちの話をしに来た。停戦受け入れか、停戦反対か」

 山県参謀総長は警戒しながら、本多海兵本部長に会った。

「小倉処平と会ったのも把握しておる。大方、2人で話し合ったのだろう」

「よく御存じですな」

 本多海兵本部長は、にこやかに言った。


 まず最もタカ派を分断して潰すことだ。

 そうすれば後は腰砕けになる。

 本多は腹の中でそう考えた。

「樺太攻略が終わり次第、そして、バルチック艦隊が母港に帰還するならば、という条件で停戦を受諾するというのはどうでしょう」

「それは呑めるな」


 山県参謀総長は言った。

 奉天会戦の大勝利で日本の方が満州の総兵力では現状では優勢にある。

 講和交渉中の停戦は特に問題なかった。

 バルチック艦隊が母港リバウに帰るというのを日本海軍が追撃することはできない。

 要するに日本は全く損が無いのだった。


「とりあえず停戦は受諾する方向だというのを宣明すべきでは、外国からの疑念は早めに消すに越したことはありません。その上でこの条件を付けたいと条件闘争に持ち込むべきです。停戦を無条件で拒否していると米国が講和の斡旋から手を引きかねません」

 本多海兵本部長は追い討ちをかけた。


「何か裏は無いか」

「ありません。私は常に裏の無い人間です」

「大嘘を吐くな」

 山県参謀総長は鼻を鳴らしながら、本多海兵本部長を見た。


「お前が裏の無い人間なら、わしは日本一、いや世界一愚直な人間だ。まあ、いい。とりあえず条件付きの停戦には応じるということで動いてやる」

 これでよし。まずは布石を置くことだ。

 本多海兵本部長は腹の中で舌を出した。

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