表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/120

第4章ー5

「先年の日清戦争、義和団事件。そのために日清関係は最悪です。いずれは第二次日清戦争が起こるでしょう。何しろ、台湾は清国領でしたから、口実は充分です。その前に清国が別の国になっているかもしれませんがね」

 小倉は偽悪的な表情を浮かべながら続けた。


「今回の日露戦争で、露と日本の関係も同様になります。これ以上、日本の敵国を増やすわけにはいきませんが、ちょっと問題がありましてね。バルチック艦隊を打ち破った場合に海軍は軍縮に応じてくれると思いますか?海軍軍人に対してお伺いしたい」

「応じないでしょうな」


 本多は答えた。

 勝利の栄光に輝く軍隊を縮減する。

 それは極めて困難だ。

 豊臣秀吉が政権を維持できなかった一因がそれだ。


 勝利に輝き、領土を獲得する。

 その魅力から朝鮮へ豊臣政権は出兵した。

 そして、結果は豊臣政権の崩壊だ。

 徳川政権になってから大名を改易等することで、武士、当時の軍人を減らしたが、そのために浪人が社会問題にまでなってしまった。

 本当に厄介なものだ。

 自分も軍人でありながら、本多は自嘲めいた思いを抱いた。


「しかし、バルチック艦隊を打ち破ったら、最早、日本の近くに大海軍国はいません。海軍の規模は縮小できるはずです。そういった時に、海軍が米国海軍の脅威を声高に叫びだして、海軍の軍拡を主張する可能性はありませんか」

「ふむ」


 海軍はそこまで馬鹿ではありません、と本多としては即答したいところだったが、ハワイ王国の併合、フィリピンの獲得と米国は太平洋を確実に西に進んでいる。

 そして、米国へ移民した日本人が差別されているという現状もある。

 最も、日本も米国人等への外国人差別があるので人のことは全く言えないのだが。

 米国が脅威だ、と海軍が叫びだせば、受け入れられる可能性は充分にあると本多は考えざるを得なかった。


「そして、日本の国力的に対露戦、対清戦、対米戦、三国それぞれに対応した戦争準備を進めることは現実的ですかね」

「極めて非現実的な話ですな」

 小倉の問いに本多は答えた。


「私としては、海軍に露海軍だけを見てほしいのですよ。ある人が敵対心を持って相手を見ると、相手もその人を敵視するようになるものです。国家間も同じです。下手に海軍が米国を敵視しだすと、日米間の関係悪化を促進することになります。それこそさっき言ったように、三国それぞれに対応した戦争準備を日本は始める羽目になりかねません」

 小倉は長広舌を終えた。

 本多は沈黙して考え込んだ。


「厄介ですな。どうやってバルチック艦隊をウラジオストックに無事にたどり着けるようにするのです。その一事だけでも大変な難問です」

 本多はようやく沈黙を破った。

「簡単なことです。停戦協定を日本が受け入れればよろしい」

 小倉は言った。


「ところで、この事は小村寿太郎外相には話したので」

 本多はふと疑問を覚えた。

 小倉は小村の師匠だ。

 当然に話をしたろうに、さっきから小村外相の考えが見えてこない。


「話していません」

 小倉はあっさり言った。

「あの弟子は貧乏生活が長かったせいか、取れるものは全部取ろうとします。却ってそれでは長期的には損になることが多いのに。全く弟子を育てるのに、その点だけは失敗しました。私の考えには反対するでしょう」


 小倉の辛辣な小村批評に本多は思わず笑った。

「腹を割って話せる人に自分の考えを明かしたかったのです。これで、すっきりしました」

「私に動け、ということですな」

「ここまで私が話しただけで分かってくださるのは、本多さんしかおられませんから」

 小倉は笑みを浮かべた。

「では、動いて見せますか」

 本多は水面下でうごめくことを決断した。

 ご意見、ご感想をお待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ