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七話 すれ違い

「とりあえず座って」


店員はカウンターに座るように促してくれた。

それから先程持ってきてくれた珈琲を移動させると、店員は厨房に入った。



「この前はごめんね」


突然謝るものだからあたしは何がなんだかわからず首を傾げた。

そんなあたしの姿に気づいた店員さんは罰が悪そうに頭を掻きながらもう一度口を開けた。



「突然家まで送るなんて言ったから警戒したんでしょう? でも別に俺はそんなつもりなかったんだよ。

ただ女の子を暗い時間に一人で帰すわけにはいかないと思っただけでさ。知らない子なら放っておくけど、いつも来てくれる子だしね。

だから変に思わないでこれからもいつもみたいに来てほしいんだけど」



店員の言葉がしばらく理解できなかった。



送ったことをもしかして悪いと思ってる?

あっ、そうか。あたしが突然帰っちゃったから勘違いしてるんだ。



違うのに。



そうじゃないのに。




あたしは口を開けようとして、しかし閉じてしまった。

だって帰ったのは恥ずかしかったからだ。


店員さんに抱いてしまった気持ち、年上の男性と歩いている自分、名前が綺麗だと言ってくれたこと。


その全てが恥ずかしくてその場にそれ以上いられなかった。



でもそんなこと、この人に言えない。



「違うんです。ごめんなさい、突然帰ったりして」



結局そうとしか言えず、あたしはそのまま俯いてしまった。


相手の表情を見るのが怖かった。



でも俯いてしまったあたしは口の開かない相手の顔が気になって仕方なかった。


今彼はどんな顔をしているのだろうか。


怒っているだろうか。


幻滅しているだろうか。



幻滅?


何言っているんだろう。あたしはただのここの客なのに・・・。



「あ、あたし」



勢いよく顔を上げれば、困ったような顔をしている店員さんの顔が見えた。



相手もあたしが顔を上げたことに驚いたように見つめてから、一瞬目を逸らした。



「それじゃあ、今日は送って行くよ。せっかく今日こんな時間に来てくれたんだし。

もしかして、帰ったこと謝りに来たのかな?」



店員さんは恐る恐ると言った様子で尋ねてきた。


「はい」


あたしが小さく呟けば、店員さんは「そっか」と言っていつもの笑顔に戻った。

いつもの珈琲を持ってきてくれる時のお店の笑顔を向けてきた。




「それじゃあ片づけ済ませるから待っててね」


店員はそれだけ言うともうあたしには目を向けず作業を始めた。



店員さんが淹れてくれた珈琲はいつの間にか冷め切ってしまっていた。

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