五話 変わった自分
「三波ー、本当にこういう、こういう服がいいの?」
「ちょ、超かわいいじゃん。前から思ってたんだよねー。美花は女の子女の子したフリルとか、花柄とか清楚でもチャーミングなのが似合うって」
ピンクで目がちかちかしそうな店で、三波に渡されたワンピースを試着してみた。丈は膝よりも上で、フリルがついているし、ピンクにドット柄で、胸にはタイなんて結ばれちゃってて、すごく恥ずかしい。
「あの、三波、カフェに行くだけだからもっと普段着っぽいのがいいんだけど」
「そっかあ、それじゃあ、それ勝負服ね」
三波はとんでもないことを言いながら、ルンルンと違う服を探しに向かった。なんだか遊ばれているような、三波のおもちゃにされているような気がする。
でも、あの人はこんな服を着た女の子のことどう思うんだろう。可愛いって思ってくれるのかな。そういえば自分は名前を言ったけど、相手の名前を聞いていない。そんな余裕もなかった。
「よし、これならいいでしょう」
そう言って三波は花柄の白いスカートと、ピンクのブラウスを持ってきた。
「それくらい、なら・・・」
それでも、そんな物を着てあの人の隣に並ぶかと思えば、今から顔が熱くなってくる。
「もう、美花ったら顔赤いよー」
三波が茶化すように言ってきた。
「それじゃあ次は化粧品見に行くよ」
まだ試着室でうろたえているあたしをよそに、三波はさっさと全ての服を抱えてレジに向かって行ってしまった。
「化粧はあたしが教えてもいいけど、やっぱりプロの人に教えてもらった方がいいでしょう。だから百貨店の化粧品コーナー行こう」
「えっ、いいよ。三波が教えてくれれば」
全力で首を横に振るあたしに、三波は詰め寄って少し怖い顔で言った。
「積極的にしてくださいって言ったのはどこの誰?」
「は、はい・・・」
三波に押されるままに、あたしは緊張で全身を強張らせながら化粧をしてもらうことになった。店員のお姉さんからは、何度も「緊張しなくていいよ」と笑われたが、それでもあたしの緊張は解けなかった。
それから化粧品の説明などが続き、一時間を経てようやくすべてが終わった。
「疲れた」
「何バテてんの。次はコンタクト見に行くわよ」
あたしが化粧をされている間に自分の買い物を済ませていたらしい三波は、疲れているあたしと正反対で、とても上機嫌だ。
「もう無理」
「たく、しょうがないわね。それじゃあちょっと休憩しよっか」
そして三波と共にセルフサービスのカフェに入った。
「にしても、店員に恋するなんて美花もやるよねー。まあ、忘れ物取りにきただけなのに珈琲サービスしてくれて、送ってくれれば誰でも惚れるか」
三波は楽しそうに感心したように言っている。あたしの顔はまた熱くなるばかりだ。先程購入した服を袋越しに見つめながら、不安になる。
「忙しい顔ね」
三波はそんなあたしを見て少し冷たく言い放った。そんな三波に驚いたあたしは、慌てて三波に顔を向けた。
「まあそりゃ不安にもなるか、中学生以来だもんね。美花が恋したのって」
「あっ、うん」
「あの時は見てただけで終わったもんね。ていうか、まあ、仕方ないけどね。あれは」
三波の言葉にあたしの顔は余計に沈むばかりだった。
「過去は過去、今は変わりたいって思えるほどの相手なんでしょう。それじゃあ全力でがんばらないと」
三波の笑顔にはいつも救われる。それからあたしたちはコンタクトを買い、そのまま美容院に向かった。急がなきゃって言葉にせかされて行ってみれば、いつの間にか三波が予約していたらしい。ただまっすぐに伸びているだけの日本人形のような髪は、パーマが当てられてふわふわになっている。
「これ、あたし?」
化粧をされ、パーマをかけられて、そして眼鏡を外して見てみた。まるで別人がいるようだ。こんなに可愛くておしゃれなのが、本当にあたしなの?疑いたくなるほどに激変していて、嬉しくてたまらない。
でも・・・。
「三波ー」
美容院を出てからあたしは三波に抱き付いた。思わぬことに驚いていた三波は、「あたしは好きな人じゃないぞー」と言いながらあたしの背中を叩いてくれた。
「どうした?」
「こんな恰好で明日から大学行くと思うと・・・恥ずかしくて、行けない。それに、こんな姿であの人に会えないよ」
嘆くあたしに三波は溜息をついた。
「何言ってるのよ。大学なんて三日も経てば普通になるだろうし、友達も増えるかもよ。ついでに言えば余計な男にモテちゃうかもね。それに、何より好きな人にそんなに可愛くなった自分の姿見せたら、むしろ相手が惚れちゃうかもね」
三波の言葉にあたしの不安は少し和らいだ。それでもまだ恥ずかしくて、あたしは下を向きながら家路を歩いた。