ウサギ→りんご
りんごをウサギの形にカット出来る人は数いれど、ウサギをりんごの形にカット出来る人はそうそういないだろう。
僕の彼女はこの都会のど真ん中で、どこからかウサギを調達してくる。
片手で耳をわしづかむという、ウサギに一番やっちゃいけない、スーパーワイルドな持ち方で、だ。
彼女はウサギの尻を抱え、細身のナイフでウサギの皮をシュルシュルくるくると剥いていく。
彼女の厚底サンダルにびしゃびしゃと血と、白い毛皮が落ちる。
只の肉塊と化したウサギを、彼女は更にカットする。
手、足、長い耳も切り落とす。
そしてぎゅっ、ぎゅっ、と力を込めて丸める。
こんなに華奢な腕のどこに、そんな力があるのだろうかと疑問に思う。
……しかし、そんな小さな事は彼女の無邪気な笑顔を見ているとどうでもよくなってくる。
かわいいよ。彼女かわいいよ、彼女。
ウサギはりんごの形に丸められた。
まだ息があるらしく、赤い瞳がくりくり動いている。
「はい、あ~ん」
脳味噌がとろけそうなほど甘ったるい声で、上目遣いで、彼女が僕に“ソレ”を差し出した。
最初こそ戸惑いはしたものの、彼女の可愛らしさとあまりにも異常な行動に感覚がどうかしてしまったのだろう、僕は“ソレ”をすんなり口に含めるようになった。
愛の力で、味すらも“ソレ”がりんごに思えてきている今日この頃。
☆……最初は『彼女が切ったリンゴに塩水つける代わりに自分の涙をこすりつけ始めて"何こいつきもい”ってドン引く男の話』でした。
どちらにしても頭がおかしい彼女(笑)。