紅茶
私は、紅茶が好きだ。
あのコップからなびいてくる風味が特に。
だからこそ、私が紅茶のお店に勤めることは自然な流れだっただろう。
チリンチリンとドアベルが鳴る。
ドアにつけている鈴の音だ。
「いらっしゃいませ」
男性が入って来られた。
この店では、さまざまな紅茶の茶葉を、すでにパック詰めしたものを基本的に販売しているが、不透明なタッパーに保存した茶葉を量り売りすることもしている。
また、茶葉を保存するための容器も売っているし、ISO3103に準拠した紅茶の入れ方講座なんてものまでしている。
さて、今回のお客様は、なにがほしいのだろうか。
店内を2分ほど見回していると、女性が入って来られた。
「ねえ、何が買いたいか決めた?」
「いや、まだなんだ。けっこう考えておかないとね。彼は紅茶にはうるさいから」
「どんなのがいいんだったっけ」
「フレーバー系はダメ。ミルクティーが好きとか言ってたな…」
「ねえ店員さん」
私に話を振るのか。
「なんでしょうか」
一生懸命の営業スマイルをして、彼らに応対する。
「ミルクティーにあっている茶葉はどれかしら」
女性が私に聞いた。
「ミルクティーでしたら、アッサムがよろしいかと思いますね」
「アッサム…ならそれを100gほどちょうだい」
「かしこまりました」
私はアッサムが入っているタッパーから、ほぼ100gになるように測ってから、さらに女性に勧める。
「どうでしょうか、保存用の容器も一緒に買われては」
「そうね、一緒に買っちゃいましょう」
男性は、後ろの方で、いろんな茶葉の袋を見ていた。
「ありがとうございます」
会計を済ますと、すぐに女性は男性を連れて出ていった。
「またいらしてください」
私は二人が扉の外へ出た時に言った。