「刃と日常のあいだ」
「お兄ちゃんは誰にも渡さない。でも、一番大事なのは――ちゃんと笑ってるお兄ちゃんだから。」
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「刃と日常のあいだ」
夕暮れの道場。
木刀の音が、静かな空気を裂いた。
「まだだ…もう一度。」
ヒロトは汗を拭いながら、何度も型を繰り返す。
その背中を、少し離れた縁側から見つめる影があった。
「お兄ちゃん、また無理してる。」
アイショコは頬を膨らませながら立ち上がると、
静かにヒロトの元へ歩いていく。
「休まないとダメって言ったでしょ?」
「……見てたのか。」
「当たり前じゃん。ずっと見てるもん。」
ヒロトは小さくため息をつくが、どこか優しい目をしていた。
「お前は本当に…」
「なに?うざい?」
「いや…ありがたい。」
一瞬、風が止まる。
アイショコは少し驚いた顔をして、すぐに笑った。
「ふーん。じゃあ、ご褒美ちょうだい。」
「は?」
「今日の稽古終わったら、一緒に帰る。それだけでいい。」
ヒロトは木刀を肩に担ぎ、空を見上げた。
「……安いご褒美だな。」
「お兄ちゃんと一緒なら、それでいいの。」
少し沈黙。
そしてヒロトは、小さく笑った。
「分かった。今日はもう終わりだ。」
アイショコの顔がぱっと明るくなる。
「やった!」
その瞬間だけ、剣も戦いも関係ない、
ただの兄と妹の時間が流れていた。
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「お兄ちゃんは誰にも渡さない。でも、一番大事なのは――ちゃんと笑ってるお兄ちゃんだから。」




