カレイドの少女
ここはカレイドと呼ばれる不思議な鉱石がある世界。カレイドは超常現象や伝説上の生き物を生み出し、時には大きな災害へとなりうる膨大なパワーを持った鉱石。
そのため扱えるのは特殊光学機関ファロスの認定を受けたごく一部の者だけである。
これはカレイドと共に生きた者の活動の記録である。
ポーン。ポーン。
ガラスの筒を響かせたような鉄琴を叩いたような不思議な音が鳴り響いている。
ポーン。ポーン。
あたりを見回せばそこは夜。
透き通るような大きな湖。そこに映し出されるのはラピスラズリのような深い青。そして流れゆく星々。
月がない夜空に無数の星が瞬いている。
音がどこから鳴り響いているのか気になって耳を澄ませていると、どうやら星が落ちていく場所からするようである。
星の流れを辿って歩いていくとそこには大きな洞窟があった。中は暗くて外も暗いので内側を覗き込んだところで見えるのは闇ばかり。
旅人は仕方ないのでリュックの中からランプを取り出し灯を灯した。
しばらく進むと旅人は思わずはっと息を呑んでランプを落としてしまった。なぜなら―とても言葉で言い表すことが難しいほどの景色が広がっていたからである。
ポーン。ポーン。
そこは湖ほどの大きな晶洞であった。
洞窟の天井から無数に連なっている結晶の様子はまるで鍾乳洞のよう。
落ちてきた星々がさまざまな色に光る淡い色の透明な美しい結晶を煌めかせながら落ちていき、洞窟の底へと注がれていくのであった。
底へと注がれた星々は底にどんどん広がって星一つ一つがまるで意志を持っているかのように瞬いていた。
旅人はあまりの美しさに立ちすくんでしまった。しばらくランプを落としたことすら忘れるほどに。
少しして旅人は我に帰り落としたランプを拾おうとすると不意に後ろから声をかけられた。
「こんばんは。旅人さんかしら。」
その声はまるで星が奏でる音のように透き通るような儚い声であった。旅人は思わずびっくりして勢いよく後ろを振り向き尋ねた。
「…あなたは?」
(洞窟の中に道は一つしかなかったし…人の気配はなかったはず…)
するとそこにはとても人間とは思えないあまりにも整った顔立ちのまさにお人形のような少女が立っていた。白い肌にうっすらとした桃色の頬。透き通るような青い瑠璃色の瞳はまるで星が入っているかのように煌めいている。まるでビスクドールのようだなと旅人は思った。すると少女は形のいい唇を上品に持ち上げて言うのであった。
「わたくしはルチア・ノクス・アステリア。星のカレイドの守り人です。」
それを聞いた旅人は少し驚いたように目を見開き
「星の…カレイド。」
と小さく呟いた。
そして少しの沈黙の後、彼は我に返ったように辿々しく名乗りました。
「僕の名前は…オリウィン…です。」
ルチアはオリウィンの緊張を解くように微笑み尋ねた。
「オリウィン様はどうしてこちらへ。」
「僕は星のカレイドを探しにきたんです。」
「星のカレイドを…お一人で探しに来られたのですか。」
ルチアは少し驚いたように目を丸くした。オリウィンは見たところ10代になってそれほど経っていないようであった。
「はい…。」
オリウィンはシャイなのかもじもじ両手の人差し指同士を絡ませながら自信なく答えた。
それを見てルチアは微笑ましいと思った。
(まぁ可愛らしい…。でもあまり子供扱いすると嫌がられるかもしれないわ。)
「まだお若いのに勇敢なのですね。」
「僕が勇敢…?」
「ええ。こんな夜遅くに一人で洞窟に入ろうなんてなかなかできることではありませんもの。」
ルチアは微笑んでそう答えた。
それをみてオリウィンは嬉しそうに笑った後少し悲しそうに言った。
「僕…星のカレイドにお願いしたいことがあるの。僕…お父さんと…お母さんに会いたいの。」
「……そう。」
ルチアはなんとなく察したように少し顔をこわばらせた。この辺りでは亡くなった者は星に帰るという言い伝えがあり星のカレイドを通して生者と亡者を繋ぐことができるとされていた。大事な人にもう一度会うことができたらどんなにいいか。その気持ちはルチアにも伝わるようだった。
「星のカレイドがあればお父さんとお母さんにもう一度…会えるんだよね。」
オリウィンは縋るように祈るようにルチアに尋ねた。
ルチアが返答に少し困っていると星のカレイドから声が聞こえてきた。
「坊やこっちだよ。」
少年とも少女とも思える麗しい声だった。
「僕がお父さんとお母さんに合わせてあげることはできないけれど、伝えたいことは伝えてあげられるよ。」
「ほんと…?」
オリウィンは少し不安そうにか細い声で聞いた。
「うん。ほんとだよ。」
するとオリウィンは少しずつお父さんとお母さんに伝えたいことを絞り出すかのように大粒の涙をぼろぼろ流しながら話し始めるのであった。
―
「ちゃんと全部出しきれたかい。」
「うん。…ひぐっ…ありがとう。」
オリウィンは咽び泣きながらすっきりした表情でそう答えた。
ルチアはそんなオリウィンの背中をさすって心配そうに言う。
「オリウィンは帰るおうちはあるの?」
「……ひぐっ…うん。」
「そっか…。それは幸運なことね。」
ルチアは安心したように大きな瞳の目尻を下げて言った。
「なら…お家の人が心配してるでしょうから…気をつけてお帰りなさい。」
ルチアはオリウィンの背中をさすって落ち着かせながら洞窟の出口まで案内した。
オリウィンは洞窟を出るまでの間ずっと泣いていて袖がぐっしょり濡れている。最後はなんとかルチアにお礼を言おうと振り返って言った。
「ありがとう。ルチアさん。」
オリウィンの目は泣いたのと擦ったのとで腫れ上がって目が充血していたが、顔をくしゃっとさせて笑った。
「ええ。どういたしまして。」
ルチアは優しく穏やかに言い手を振ってオリウィンを見送った。
星が無数に降り注ぐハロルドの森の一夜である。




