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第1話 ただ静かな人生を望んでいた少年



悪魔の吐息が背中に触れた、その瞬間――時間が止まった。


遅くなったわけじゃない。

歪んだわけでもない。

完全に、止まったのだ。


顔のすぐ目の前、数センチの距離で凍りついたおぞましい光景がはっきりと見えた。

口元に刻まれた歪んだ笑み。

舌から垂れる唾液。

今にも俺を引き裂こうとする鋭い爪。


俺は勇者じゃない。

重要な存在でもない。

それなのに、なぜ――最初に死ぬのは俺なんだ?


完全な静寂の中で、俺の視線は勝手に動いた。

崩れ落ちた広場の向こう側に、ヒロシがいた。

落ち着いた表情。微動だにしない姿。

彼は俺と目が合うと、わずかにうなずいた。

まるで、この結末を最初から知っていたかのように。


他のことを考える間もなく――

三時間前……


俺の名前はアレックス。

勇者になりたいなんて、一度も思ったことはない。

正直に言えば、この狂った状況に関わる気なんて、最初からなかった。


すべては、いつも通りの学校の日から始まった。

まあ、俺と友達が突然異世界に召喚された、って部分を除けばだけど。

まるでロールプレイングゲームの中に放り込まれたみたいだった。


正直、どうでもよかった。

世界を救え? 危機に瀕した王国?

遠慮しておく。

俺が欲しかったのは、元の生活――自分の部屋、ゲーム、そして静かな時間だけだ。


俺の計画は単純だった。

友達のそばにいて、目立たずに過ごし、すべてが終わるのを待つ。


……その計画は、即座に破綻した。


この世界に到着すると、明らかに女王と思われる女性が俺たちを出迎え、王国を救う使命について説明し始めた。

正直、ほとんど聞いていなかった。

それよりも、何か食べるものがないかの方が気になっていた。


意外だったのは、目立たないでいるのが驚くほど簡単だったことだ。

友達が次々と前に出て、熱のこもった演説をする中、俺はいつも通り一歩後ろに下がっていた。

注目されるのは、昔から苦手だった。


エミは、そう思っていなかったけど。


「アレックス、行こう!」

彼女は叫びながら、俺の腕を引っ張った。

「すごいことをするチャンスだよ!」


「言っただろ、エミ……」

俺はため息をついた。

「俺は、この物語の主人公じゃない。」


いつも通り、彼女は無視した。


その日の後半、俺たちは初めての本当の脅威と対峙した。

近くの村を壊滅させていた、影の悪魔。

エミは迷いなく前線に立ち、戦っていた。

俺はというと、壊れた噴水の近くに身を潜め、すべてが終わるのを待っていた。


混沌は耳をつんざくほどだった。

魔法が広場を照らし、石は砕け、影は不自然に蠢いていた。


――そして、すべてが狂った。


音が消えた。

空気が冷たくなった。


首筋の産毛が逆立つ、原始的な感覚。


「アレックス、危ない!」

エミの叫び声が響いた。


俺は振り向いた。


顔のすぐ目の前――

純粋な闇から生まれた何かが、俺に微笑みかけていた。



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