第8話 アナスタシアの回想
私たちは、とても仲の良い家族だった。
家族思いの両親。いつも一緒だった3人の姉。
母は病弱な弟に付きっきりだったから、少しでも助けたいと、私たち姉妹はよく看病を手伝った。
広い家には、大人たちがいっぱいいた。
朝、髪を結ってくれるカーチャ。
勉強を見てくれるセルゲイ先生。
台所には、アンナとミハイルとナターシャがいて、いつも、いい匂いを運んできてくれた。
運命が変わったあの日。
扉の外からカーチャの叫び声が聞こえた。兵隊さんの足音が近づいてくる。
父が「大丈夫だ」と言ったけど、母は弟を抱いて震えていた。
「革命」が起きたのだと、あとで知った。
トボリスクでの幽閉生活が始まった。
使用人は大幅に減らされて、寂しくなった。
それでも、私たち家族の絆は変わらなかった。
朝起きて、祈りを捧げる。庭で姉と遊び、弟に絵本を読んであげて、夜は家族皆で食事をとる。
セルゲイ先生の授業はもう受けられないけど、かわりにカーチャが勉強を教えてくれた。
しばらくしてエカテリンブルクに移ることになって、カーチャともお別れ。
カーチャは泣いていた。
大丈夫だよ。と声をかける。
私は平気。家族と一緒だから。カーチャも身体に気をつけてね。
外の世界は変わってしまった。
けど、私たち家族は変わらない。
そう思っていた。
最後の日。
「記録を残しましょう」
兵士にそう言われ、地下室に呼び出された。
皆で並ぶ。私は、姉の中でも1番仲良しだったマリアの隣。
その瞬間、閃光とともに轟音が耳を貫いた。
少し遅れて、身体から焼けるような痛み。
兵士が銃を構えていた。
父が、母が、姉が、弟が、…マリアが。赤い血を流し倒れていく。
そして私の視界も暗転した。
私の名前は、アナスタシア=ニコラエヴァ=ロマノワ。
ロシア帝国の第4王女。




