第6話 アマミヒメの回想②
キイカとの出会いは、視察に行った先の村だった。
卑弥呼のようにはできないが、自分なりに国を知り、善く治めたい。そう考えたアマミヒメは、時間があればあちこちの村を訪ねていた。
「女王の威厳がなくなる」
そんな陰口もあった。
国の連合体である邪馬台国をまとめるために祭り上げられたアマミヒメの権力は弱く、自分の方が王に相応しいと公言して憚らない男王もいた。
それでも、女王になった以上は、とにかくできることをしたかった。
だがその日訪れた村は、山賊の襲撃に遭い、すでに壊滅していた。
建物は焼け落ち、動くものの気配はない。
「これは誰も生きてやしません。帰りましょう、女王様」
護衛の男が面倒くさそうに言う。
だが、アマミヒメは木々のざわめきから何かを感じとり、林の奥に向かった。
そこにいたのは、倒れた少女と、それを守るように立つ黒い獣ーーアマミヒメたちが初めて見る「馬」だった。
「なんだ、この化物は。どけ!俺が叩き斬る!」
「待って!」
剣を抜こうとする護衛を、アマミヒメは咄嗟に制した。
殺させない。
何もできない女王だけど、せめて目の前の命だけは…!
「やれやれ、女王様の気まぐれにも困ったもんだ」
護衛がわざと大きな声で呟くのが聞こえたが、アマミヒメはそれには答えず少女に向き直った。
少女の腕には刺青があった。罪人の子であることを示す刺青だ。
きっと、村の外れで苦しい生活をしていたのだろう。
だが、そのおかげで山賊の襲撃からただ一人生き残った。皮肉なものだ。
「この子も一緒じゃないと……」
馬を指して言う少女に、アマミヒメは頷き、手を差し出す。
「もちろんよ。一緒に行きましょう」
これが、キイカ、そして三日月との出会いだった。
その後、キイカは「救ってもらった恩を返したい」と兵士になった。
キイカにしか乗りこなせない馬の機動力は、邪馬台国に多くの戦果をもたらした。
だが、アマミヒメの胸中は複雑だった。
キイカが傷だらけで帰るたび、胸が痛んだ。
あなたを助けたんじゃない。
助けることで、自分を肯定したかっただけ。
何もできない名ばかりの女王である自分にも、救った命があると思いたかっただけーー。




