第5話 森の入口
【南西の森】
中央の遺跡を目指し、アマミヒメは三日月とともに森に入った。
だが、思うように速度は出せなかった。
落ち葉が厚く積もった土は、踏み込むと柔らかく沈む。
更に、木々は高く、幹は太い。その根は地面を這うように伸び、ところどころで隆起している。
うっかり足を乗せると、苔に覆われた根が滑り、転倒しそうになる。
三日月は、わずかに乾いた地面や獣道を選び、慎重に歩みを進めた。
(森が騒いでいる…)
そう感じたのは、森をしばらく進んだときだった。木々から漂う不穏な気配に、アマミヒメは眉を寄せた。
風がざわり、と耳元を撫でる。
まるで「来い」と呼ばれているようだった。
自然と対話し、祈りを捧げ、雨を降らせること。
それこそが邪馬台国の女王に求められる資質だった。
初代卑弥呼のような神がかりの力こそ弱かったが、アマミヒメにも確かに森の声は聞こえる。
だから、森の警告を無視するという選択肢はなかった。
アマミヒメは手綱を引き、三日月の進路を変える。
もしかしたら、他の王女がいるのかもしれない。
もし、出会ってしまったら。
先ほどの瑠火の、殺意のこもった目を思い出す。
ーー戦う。迷わない。
アマミヒメは胸の奥で覚悟を固めた。
もし、他の王女が襲われていたとしても、助けない。
大丈夫。見捨てるのは得意だもの。
私、打算なしに人を助けたことなんか、ないもの。




