第4話 始動
「三日月。あなただったのね。」
十分な距離を走り、瑠火の姿が見えなくなったところで、アマミヒメは話しかける。
「ありがとう。また会えて…本当に嬉しい!」
ぎゅっと馬の首に抱きつく。三日月も嬉しそうにいなないた。
そこで、アマミヒメはあることに気づく。
さっきまで頭に直接響いていた三日月の声が、ぴたりと聞こえなくなっていた。
「三日月?」
話しかけるが、やはり言葉は返ってこない。
(…どうして?)
アマミヒメは違和感を覚える。
そういえば、言葉が聞こえなくなったのは、さっき三日月が姿を現した時からではなかったか。
(もしかして…、呼び出してしまうと、もう言葉での会話はできないの?)
もしそうなら、呼び出してしまったことで会話できなくなったのは少しだけ残念だ。
とはいえ、あの状況では仕方なかった。
「でも、何も問題はないよね。三日月。」
三日月は再びいななく。
言葉は通じなくても、心は繋がっている。そう確信できる絆が、アマミヒメと三日月の間にはあった。
さて。これからどうするか。
アマミヒメは、先ほどの三日月の言葉を思い出す。
ーーこの島の中央に、歴史を変える力を持つ『書』がある。
そう言っていた。
そして、5人の王女を殺せば、その力を使える、とも。
三日月の言葉なら、信じて行動するのには十分だ。
決めた。まずは、『書』があるという、島の中央に向かってみよう。
他の王女も、最終的にはそこを目指すはずだ。
アマミヒメは三日月の背に乗り、話しかける。
「三日月。私またキイカに会いたいの。また、私を運んでくれる?」
三日月は力強くいななく。そして大きく後ろ足を蹴り、駆け出した。
アマミヒメは誓う。
この島で再び命を得たことを、絶対に無駄にしない。
たとえ、同じ思いを持つ王女の命を、奪うことになったとしても。
***
「さっきのは何?…ああ、そういうこと。」
アマミヒメを逃した高句麗の王女・瑠火は、頭に直接響く声と会話していた。
ーーすまない。説明が遅くなった。
瑠火の頭に響くその声は、三日月とは違う声だ。
「気にするな。ろくに説明を聞きもせず、近くの王女を殺しに行ったのは私だ。結局、死んでも治らないな。この猪突猛進な癖は。」
一瞬だけ、瑠火の表情が柔らかくなる。
「言葉で話せなくなっても問題ない。出てきて、また一緒に戦ってくれ。ーーオンゴン。」
瑠火が名を呼ぶと空気が震え、灰色の山犬が顕現した。
オンゴンは、瑠火が生前ともに戦場を駆けた、誰より信頼する相棒だった。
瑠火は屈んで、オンゴンの頭を撫でる。
「お前がいれば、相手がどこにいようと逃すことはない。行こう。」
瑠火は誓う。
今度は間違えない。
全ての王女を殺し、絶対に戦いを終わらせる。
***
同時刻。
島の北の高台で。
北東の平地で。
南西の森の中で。
東の湿地帯で。
それぞれの思いを抱えた亡国の王女たちが動き出していた。
次回は明日21:10に投稿します。




