第13話 ソフィア
ーー強い。
瑠火は、その琥珀色の髪の王女を見た瞬間に感じ取っていた。
戦場の匂い。隙のない立ち振る舞い。そして、いざとなれば相手を容赦なく殺すという覚悟。
自分と同じ、長く戦いに身を置いていた者だ。
さらに、この王女が使役する巨大な鷲。オンゴンの牙も空には届かない。厄介だ。エジプトの王女と共闘されれば、2対1では勝てない。
瑠火の決断は早かった。
「オンゴン!」
山犬とともに素早く森に逃げ込んだ。
琥珀色の髪の王女は深追いせず、セレネに向き直る。
「怪我は?」
「大したことないわ。…ありがとう。礼を言うわ。」
言いながら、セレネは琥珀色の髪の王女を観察する。
剣と盾。金の刺繍があしらわれた外套の下に、鉄の鎧。それは王族にありがちな未使用の美しさではなく、しっかりと手入れされていることによる輝きを放っている。
長身で、琥珀色の髪は短く、美少年と言われても信じてしまいそうだ。
いや、それよりも。
セレネは名乗ることも忘れ、先に尋ねる。
「なぜ…助けたの?」
労せず、王女の1人が脱落する寸前だった。自分だったら、きっと見殺しにしただろう。それこそが、王の取るべき道のはずだ。
琥珀色の髪の王女が答える。
「王とは、民を守るものだろう?」
「誰が民よ」
おっと。
思わずツッコむが、直後に反省する。軽口はセレネの愛嬌でもあり、欠点でもある。
琥珀色の髪の王女は慌てて訂正する。
「あ、すまない。失礼した…。とにかく、あなたがまだ諦めていなかったから、見殺しにしたくなかったんだ。」
守る。見殺しにしない。
それは、王とは他者を支配し使うものと考えていたセレネの中にはない言葉だった。
「そう…」
うまい言葉が出てこない。もう少し自分の中で咀嚼する必要がある。
「いずれにせよ助かったわ。感謝します。私は、エジプトの王女、クレオパトラ=セレネ。あなたは?」
「クレオパトラ?あなたが…」
琥珀色の髪の王女が反応する。
「知っているの?」
「ああ、遠い国の話だが、とても美しい女王だったと聞いている。」
きっと母のことだ。
セレネは、素直に嬉しい。
ローマに滅ぼされても、遠くの国で母を覚えている人がいる。
琥珀色の髪の王女は続けた。
「名乗るのが遅れた。私はローマ帝国王女、ソフィア」
「ローマ…?」
ローマ。
エジプトを征服した国。
セレネの鼓動が速くなる。憎しみではない。衝撃だった。
ローマの名を冠する国の王女がここにいる。
つまり滅んだのだ。あの、ローマすらも。
「セレネ。あなたはさっきの東洋の王女に共闘を提案していたな。私も、今すぐに戦う必要はないと思う。協力して遺跡に向かわないか?」
ソフィアの提案に、セレネは努めて平静を装いながらゆっくりと頷いた。
セレネの心中を知ってか知らずか、ネフェルが足元にやってきて、セレネにすり寄る。
あんたどこにいたのよ。




