第12話 初戦
セレネが遺跡に向けて歩き出そうとしたそのとき、ネフェルが耳をピクッと動かし、後方の茂みを見つめた。
セレネもその方向に注意を向ける。
そこから現れたのは、剣を持ち、真っ直ぐにこちらを睨む少女だった。
(いきなりお出ましね…)
後ろで束ねた漆黒の髪。肌の色素は、ローマ人よりは濃く、エジプト人よりは薄い。
おそらく、東の果ての者だ。
聞いたことはあるが、セレネも会うのは初めてだった。
セレネは両手をあげ、戦意がないことを示しつつ会話を試みる。
「待って。私はエジプトの王女、クレオパトラ=セレネ。あなたは?」
「高句麗王女、瑠火。」
セレネは、返答が来たことに少しだけ安堵した。
会話が成り立つ相手。ならば、戦うだけが方法じゃない。
「私たち以外にまだ4人の王女がいる。先に戦って消耗するのは愚策よ。手を組みましょう。」
「黙れ」
瑠火からの返事は簡潔だった。
そして剣を構え、セレネに斬りかかる。
セレネは咄嗟に剣で受け止めた。金属音が響く。
「ちょっと、話を…!」
「戦いは、どちらかが死に絶えるまで終わらない。お前が敵なら、排除するのみ!」
剣を構え問答無用で襲いかかってくる瑠火に、セレネも剣を抜いて応戦した。王宮であらゆる教育を受けたセレネは、当然剣の心得もあった。
だがーー
(まずい…!)
一太刀合わせただけで、セレネは力の差を理解した。
速さも重さも、自分とはまるで違う。実戦で鍛えた、殺意の塊のような剣。
(長くは凌げない!)
瞬時に、セレネは森に目をやり、この場を逃れる算段を立てる。
だが、瑠火はセレネを逃がす気はない。
「オンゴン!」
瑠火の声に応え現れたのは、大きな灰色の山犬だった。なんの指示がなくとも瑠火の意図を理解し、セレネの退路を断つように回り込む。
そして、同時に攻撃を仕掛けてきた。
「くっ…!」
セレネはかろうじて躱す。
だがオンゴンは素早く方向転換し、鋭い牙でセレネの喉元を狙う。
そして、セレネは咄嗟にガードしようと差し出した左腕に牙を突き立てた。
「痛っ…!」
血が噴き、腕が痺れた。力が入らない。
オンゴンは噛み付いたまま離れない。
「放せっ…!」
セレネが振った剣を、オンゴンはひらりと躱した。
セレネは立ち上がるが、腕から血が流れ、息が荒い。
血の滴が地面に落ちる。そこを中心に花が咲くが、それを見る余裕はない。
気がつくと、崖に追い詰められていた。
そして瑠火が剣を構えた。
次の一太刀で決めるつもりだ。
(待って…)
セレネは必死で頭を回す。
瑠火が踏み込んでくる。
(待ってよ!私、まだ何も…!)
だがその剣がセレネを貫くことはなかった。
突如、空から現れた巨大な影が瑠火とオンゴンを攻撃したのだ。
それは、広げた羽が大人の男性ほどの大きさの、巨大な鷲だった。
そして鷲は、瑠火が出てきたのとは反対側の茂みに入っていく。
「何者だ!?」
瑠火が声をあげる。
鷲を腕に乗せ、茂みから出てきたのは、鉄の鎧を纏う、琥珀色の髪の王女だった。




