第10話 セレネ
【北の高台】
アマミヒメとアナスタシアが、ともに中央の遺跡を目指すことを決めた頃。
北の高台から、1人の王女が島全体を観察していた。
外見は10代後半。短く切りそろえた髪に、白い麻の服。首周りと両腕に、黄金の装飾を身につけている。
王女の名はクレオパトラ=セレネ。
エジプト王国の最後の女王・クレオパトラ7世の娘だった。
「あそこに『書』があるのよね?」
セレネは足元の猫に話しかけた。
宮殿で飼っていた、斑点模様の猫。名はネフェル。
本来はスリムな体型の品種のはずだが、血が混ざっているのか、宮殿で良い食事を与えられるせいか、若干太っている。多分後者だろうな、とセレネは思っている。
島で目覚めたセレネの脳に語りかけて来たのはネフェルだった。
この島や『書』のことを一息に説明すると、(じゃあ、そういうことだから。あとは頑張って)と言い、呼んでもないのに出てきた。
いまはもう、ニャアとしか言わない。
「あんたさ、呼び出したら話せなくなるならそう言いなさいよ。いろいろ聞きたいことあったのに」
セレネは文句を言うが、ネフェルは我関せずとでも言いたげに後ろ足で頭を掻いている。
セレネはため息をつく。
仕方ない。こいつに期待しちゃいけない。
再び前方に視線を戻す。
山の中腹の、『書』があるという遺跡。先ほどから観察し、セレネはあることに気づいていた。
(あれは、入口だ。)
同じ形の遺跡が、山を囲むように一定間隔で点在している。
おそらく、あの山を囲むように、複数の入口があるのだ。そして入口からのびる通路は、山の内部に向かっている。
(もしかしたら、あの山自体が建造物なのかも。)
まるでピラミッドだ。それもエジプトにあるものよりはるかに巨大で、精微な構造物。
恐ろしい。それが正直な感想だった。
見たことのない密林といい、森をうろついている巨大な鳥といい、どれも得体が知れない。
でも、だからこそ。
歴史をかえる『書』についても真実味を帯びてくる。
セレネは息を大きく吸い、吐き出した。
「行くか」
母の誇りと、エジプトを取り戻すために。




