コウエンVSオスカル
ビン子の胸から生気を吸い上げる石。
その石をつかんで放さないタカトの腕。
それは意識を失う前と同じ光景。
だが、違うのはタカトの体が動かないこと。
いや、動かないというより動かせないのだ。
先ほど見た異世界同様、タカトの意識が体の奥へと追いやられ、その制御を奪われているのである。
そんなタカトが腹の奥から声を上げる。
「イブゥゥゥゥゥゥウゥ!!」
そして、渾身の力でビン子から生気を吸いつくそうとしている石を持ち上げようとするのだ。
だが、そんな腕から石を通してタカトの生気も吸い取られる。
それは、意識しかないタカトも意識が飛びそうなぐらい何かが持っていかれるような激しい感覚なのだ。
だが、それにも関わらず別の何かに乗っ取られたタカトは鼻で笑うのだ。
「ふっ! そんなにわれの生気が欲しいのか! ならばくれてやろう我が生気!」
『万・気・吸・収!』
この世のすべての物質に気が宿っている……
それが万気。
この世に存在するありとあらゆるものの根源たる気。
無機物である石や、人や魔物といった生物にも宿っている。
そんな万気が タカトに向かって大きな渦となって集まり始めた。
それをタカトは大きく口を開いて吸い込む。
そのとたん、タカトの体中にみるみると生気がみなぎってくるのであった。
生物に宿る万気は命の源となり命気となる生を形作る。
その命気から発せられるのが生気である。
その生気が今、ビン子の胸の上にのせられた石を通して吸いだされているのだ。
生気が尽きるとき、命気もまた尽きる。
すなわち、それは、その個体の死を意味する。
いまだ、ビン子の胸の上にのせられた石を通して、それに触れているタカトやビン子の生気が吸いだされていく。
その激痛。
タカトは苦悶の表情を浮かべる。
そして、祭壇の上でのけぞるビン子は激しい苦痛の声を上下続けていた。
「今度は我が助ける番よ!」
それを見ながら乗っ取られたタカトは大きく息を吸い込んだ。
そのすぐあと、タカトの背後でバタバタと倒れる音がしはじめた。
それは戦っていたミーニャ、オスカル、アンドレが倒れた音。
もしかして、お菊たちが勝利をおさめたのだろうか?
いや違う。
お菊やコウエン、ルリ子たちもまたひざを折り地面に手をつき肩で呼吸をしていた。
――体が重いぜ……クソッタレ!
ルリ子が持つ金属バットはボッコボコのボッコボコ。
今までどれだけのモンペをどついてきたとしても一度も曲がることがなかった名バット『瑠璃一文字』がベッコりと「く」の字に曲がっていた。
アンドレとのバトルがよほどの激闘だったことがよく分かる。
そんなルリ子は今にも意識を失いそうな目でタカトを見上げた。
そこには立ち上る激しい光に手を突っ込み必死に石を引きはがそうとしている姿。
大声を上げ気合を入れるタカトには日ごろのお調子に乗った姿は見えない。
それどころか、なにやらタカトの体から赤黒い生気が発せられているように見えるのだ。
赤黒い生気?
だが、それを見た瞬間からルリ子の体が小刻みに震えだしていた。
――クソ! なんで震えているんだよ! 私は!
訳が分からぬルリ子
――寒い? いや違う! ……私はなにかにおびえているんだ!
そう……それは恐怖。
それも、ルリ子の本能が意識で認識するよりも早く死を覚悟してしまうような抵抗できないほどの恐怖であった。
目の前のタカトから発せられる赤黒い生気……どうしてかなのか分からないのだが……それがどうにも恐ろしくてたまらないのだ。
――クソ! 私は何を恐れている。あれはエロしか取り柄の無いタカトだろうが!
だが、ルリ子の体が前に進むことを拒絶する。
そして、また、その恐怖に抗うものが一人。
そう、それは巨漢のアンドレ!
アンドレもまた、ルリ子とのバトルによってボロボロになっていた。
その強靭な筋肉の表面に赤紫のあざが無数に浮かび上がっている。
いったいどれだけ金属バットでどつかれたらこんな風になるというのだろうか。
いや、そもそもこの腫れた顔面を見れば、生きているのが不思議なぐらいなのである。
だが、正直、アンドレにとってルリ子にどつかれることなど何ら恐怖ではなかった。
所詮は人の子、人間の女。
体を傷つけることはできたとしても、アンドレの魂を消し去ることなどできないのだ。
「いくらでも打ち込んで来い! 我がプライドにかけて立ち続けてやろうぞ!」
立ちはだかる壁のようなアンドレ。
そんなアンドレがタカトから発せられる赤黒い生気におびえていたのだ。
それはただならぬ生気。
騎士や魔装騎兵たちがまとう闘気や覇気とは明らかに違う。
本能的に分かるのだ……
――あの生気には触ってはいけない……
アンドレは渾身の力を振り絞って膝に力を入れて立ち上がると震える足を押さえつた。
そして、まるで恐怖を払うかのように大声をあげたのだ。
「エウア様! お逃げください! あれはヤバい! 絶対ヤバい奴です!」
自分が犠牲になってでも信じる神エウアをこの恐怖から逃がそうと思ったのだろう……
だが、壇上にいるエウアは身を震わせ動かない。
アンドレの声が届いているにもかかわらず、一向に逃げようとしないのだ。
もしかして、足がすくんだとか?
いや違う、彼女の目からは大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちていた。
そして、頬を真っ赤に染めあげ歓喜の表情を浮かべていたのである。
「あああ……アダム様……こんなところにいらっしゃったのですね……」
アダム……
それはこの世界の始まりにかかわる原初の神……
現存するすべての神の生みの親……
原初の神イブの片割れにして……一切の死をつかさどる神……
そんな神の名をエウアは今、叫んだのだ。
もしかしてタカトのことか?
いや、おそらく、今タカトを支配している何者かの気配に対しての事だろう。
タカトの奥底に眠る赤黒い恐怖……
タカトが本能的におびえるとてつもない恐怖……
その本性がアダムなのかもしれない……
埒が明かないと見たアンドレはミーニャに命令す。
「ミーニャ! エウア様を連れてこの場から逃げろ!」
「なんで私が! アンタの言う事を聞かないといけないのよ!」
「お前では役に立たないんだ!」
そう、ミーニャもお菊との激しい戦闘によって、『ヤマダのオロチョン』につけられていた洗濯ばさみのほとんどを失っていた。
残るは3個……もう、単に指からたくさんのビニールのひもが垂れているだけwww
しかも、その身に着けていたエロエロコスチュームのいたるところが破けて、エロエロのただのエロに成り下がっていた。
もうこの姿……下手なストリップ劇場の盛り上げ役の状態。
とてもアイドルとしては人様に見せられる姿ではなかった。
こんな状態でお菊との戦闘を続けることなど、まずもって不可能。
だが、ミーニャは腐っても悪の首領!
こんなところで引き下がるわけにはいかないのだ
そんな彼女のプライドがアンドレの言葉を遮るのだ。
そこにフラフラ状態のオスカルも言葉を重ねる。
「ミーニャ……今なら、私とアンドレとで奴を抑えることができるかもしれない……」
やっとのことで立ち上がると、ミーニャに背を向けタカトににらみを利かせた。
だが、オスカルもまたボロボロ……
といってもレイピアを持つ手の甲だけが妙にボロボロ……というか、真っ赤なのである。
当然、その原因はコウエンとの激しい勝負!
対面する二人。
にらみ合う二人。
その間には静寂という名の緊張が走っていた。
「田子の浦にうちいでて見れば白たへの」
瞬間! コウエンの手が素早く空を切る。
パンとはじけ飛ぶ一枚の札!
そう、皆さんよくご存じの「富士の高嶺に雪は降りつつ」である。
……って、百人一首?
そう、百人一首www
コウエンとオスカルは畳の上の格闘技という異名を持つ百人一首でバトっていたのであるwww
だって、コウエンさん万命拳を極める万命寺で修行しているとはいえ、その目的は医術の研鑽。さすがに拳でどつくわけにはいかんでしょwwwww
しかし、対するオスカルは、こう見えても悪の組織ツョッカーの幹部!
素直に札を取られて「ああそうですか」などと泣き寝入りなどするわけはない!
飛んでいく札めがけ一陣の風が吹き抜けると、レイピアの先端が下の句の札を貫いていた。
「これでこのカードは私のものだなwwwwもう一度聞くが、最後に多くカードを持っていた方が勝ちでいいのだなwww」
カード? 札じゃなくてカードとおっしゃいますか……
もしかして、オスカルさん……百人一首のことしらないのでは?
そう、知らないのだ。まぁ、作者も知らないのでどっこいどっこいといったところであるがwwwww
だが、オスカルの場合、目の前のカードに何が書いてあるのかすらも全く分からない状態なのである。
だが、まあ、コウエンがやろうと言い出した以上、コウエンはこのカードが意味する内容を理解しているはず。
――ならば! 奴が取ったカードを横取りすれば、万事!解決ではないかw
と、意気揚々とレイピアの先からカードを回収しようとした矢先!
ぴしっ!
札をつかむオスカルの手をコウエンの平手打ちが鋭くひっぱたいた。
まさに手刀! いや!研ぎ澄まされた白刃といってもいいだろう。
「いてっ!」
たまらずオスカルは悲鳴を上げると手に持っていた札を落としてしまった。
だが、コウエンはそんなオスカルの目をじっと見たまま何も話さない。
その冷たい感じ……
いや、何とも言えないような威圧感……
コウエンのまとう静かなオーラが今すぐにでも殺すぞ!と言っているような恐怖を感じさせた。
これには、さすがに悪の組織ツョッカーの幹部であるオスカルもひるんだ。
――なんて冷たい目をしてやがるんだ……
だが、オスカルは、読み上げられる上の句に対して、どのカードを取ればいいのか全く分からない。
しかも! 読み上げているのはコウエン自身なのである。
完全にアウェイ! 土俵が違うのだ。
しかし、目の前にいるエウアの手前、ここで「ハイ! 降参!」というわけにはいかない。
――ならば!
「ちはやぶる 神代も聞きかず 竜田川」
次の上の句が読み上げられると同時に、やはりコウエンの手刀が一枚の札を弾いた。
だが、 そんなことはオスカルにとっては先刻承知!
――勝負はここからだ!
再びオスカルの鋭いレイピア一撃が飛んでいく下の句が書かれた札を貫いたのだ。
――先ほどはここでカードを外したことが失敗の原因! このままカードを貫いておけば奴は何もできないはず!
オスカルの作戦はこうだ。
コウエンがはじいたカードを片っ端からレイピアで貫いて串団子のように勝負が終了するまで確保しておくというものだった。
しかも、札が団子状になったレイピアを背後に隠せば、もう手も足も出せない!
――このハゲ! さぞかし悔しいことだろう!
オスカルは意地悪そうな笑みをコウエンに向ける。
「ははは! この勝負!私の勝だな! ハゲ!」
だが、コウエンはオスカルの目をにらみつけたまま微動だにしない。
そうこの時ぐらいまでは、オスカルは自分の勝利を確信しきっていた……
「ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば」
やはりコウエンが先に動く。まぁ、オスカルにとって目の前のカードはどれも意味不明のカードなのだから動けないだけなのだが。
だが、そんなオスカルのレイピアが飛んでいくカードをまたもや貫くのだ。
しかし、その打突スピードの速いこと! 実はオスカルも凄い奴のなのでは?
そんなレイピアには、いまや2枚のカードが串刺し状態になっていた。
この行動……上の句が読み上げられるたびに繰り返される。
しかし、コウエンは動かない……
最初にオスカルの手から落ちた札一枚を確保したまま動かない。
というか……コウエンはカードを横取りされつづけて悔しくないのだろうか……




