愛する者のために婚約破棄した(自称)天才である皇族の俺様は、敵国の侵略に対抗するために自国を操縦する事に!?
「センジュ・リリアン! 俺様はお前との婚約を破棄する!」
一人の男が絶叫する。
一人の平民の少女を抱き寄せつつ。
目の前に立つ、侯爵令嬢たる私――目の前の男の婚約者として、十年前に厳正な審査の下に選ばれたセンジュ・リリアンへ向けて。
陛下の国葬が済んで一度帰ろうという時に。
私は思わずため息をつく。
かつて陛下らから聞いてた通りの事が現実に起こったからだ。
「おい! この俺様が婚約破棄をしたんだぞ!? むせび泣きながら『なぜですか殿下!?』と絶叫したらどうだ!?」
元婚約者が何やらほざいてる。
というかむせび泣きながらって。殿下は私を何だと思ってるんだか。
アフォですか。というかこの場でそんな事をさせようってんですか頭にウジでも湧きましたか。
「あのですね殿下」
【お嬢様、こうなったら覚悟を決めましょう】
【そうですお嬢様。女性を軽視してるジュリオ殿下はダメです】
そして私が殿下を諭そうとしたその時。
父の代から我が家に仕えてくれてる、現在は私の護衛である屈強な体格の双子の兄弟――ウゾールとムゾールが私に【心の声】をかけた。
「そうね。ここらが潮時ね」
そして私は覚悟を決めた。
ウゾールとムゾールが声をかける中で、またしても殿下がキーキー絶叫してた気がするが、言うべき事を言おう。
「では殿下、真実の愛だか何だか知りませんけどとにかくお幸せに。私はその婚約破棄を謹んでお受けしますので」
「おいィィィィ!? やっぱり話を聞いていなかっただろう貴様ァァァァ!? 俺様は今流行りの真実の愛の話じゃなく、お前が俺様の新たな婚約者ことルーミアに嫌がらせしてた話を……っておいィィィィ!?」
殿下のさらなる絶叫を私は無視した。
それよりも早く行動しなければいけないため、私は私に駆け寄ったウゾールに、素直にお姫様抱っこされ三人一緒にすぐにその場から……それはもう疾風の如く。速く移動した。
うーん。
何度も経験してるけどウゾールもムゾールも凄い身体能力だ。
私もそれなりに高い方だけど。
やっぱり育ちが違うのかしら。
※
かつてこの世界には戦争があったらしい。
いったいどんなキッカケで起こった戦争かは知らん。
仮にその資料があるとすれば、このアマステラ皇国――戦争の影響で荒廃してるどころか、核汚染もあって人間には住めやしない世界と化したこの惑星で、人間が生きれるように、俺様の先祖が生み出した自律型移動国家の足元の、どこかにあるかもしれんが今の俺様には関係ない。
たとえ考古学者が戦争の全貌を解明したとしても。
今の俺様の生活――数回チャレンジしただけであらゆる物事を把握して、好成績を残してしまうこの俺様につまらん勉強を強要したどころか、そんな俺様の唯一の癒やしにして、愛しの女性でもあるルーミアに嫌がらせをしていたリリアンを追い出し、ようやくルーミアとハッピーエンドを迎えた俺様の生活にh――。
「殿下、あなたヴァカですか」
「うぉ!? どこから入って……ていうか無礼だぞアイサクぅぅぅぅ!」
だがその甘々な時間の後――この俺様を無視してあの場から護衛共々逃げ去ったリリアンの捜索を適当な騎士に任せた上で、改めて愛しのルーミアと一晩明かし、そのせいでルーミアが気絶している時……いったいどんな手を使ったのか、皇家に仕える、今年で六十になる執事長ことアイサクが、この俺様の部屋の室内側の入口の近くに突っ立ってたのを俺様は見た!
バカな!?
この部屋は俺様以外、入れないハズ!
昔の戦争で使われてたセキュリティによって、俺様の指紋などをスキャンせねば入れんピカイチのヤツだぞ!?
「いやそれ以前に現皇帝であるこの俺様の部屋に、まだ俺様達が服を着てないのに入るとは何事だ!?」
すぐさまルーミアに毛布をかけつつ俺様は話を続けた。
「さらにはさっきも言ったが無礼な発言までするとは! クビどころか今この場で首を斬って――」
「現皇帝陛下? 寝ぼけるならばちゃんと寝てからにしてください。ベッドを一晩ずっと軋ませるだけでほとんど寝てないでしょあなた……こちらが決めた相手ではない女性とはこれでもかと寝たみたいですが」
「うまいこと言ったつもりか!?」
「確かに皇帝陛下はお隠れになりました……が、殿下は皇帝陛下となるための儀式をまだ済ませてません。なのでまだあなたは私から見れば皇太子殿下です。婚約者を追い出した事へのおしおきを、あなたにする事もできます」
アイサクは俺様が言った事を無視するどころか面倒な脅しまでしてくる。
正直とても腹が立ったが……その儀式関連の法律は、初代皇帝にしてこの自律型移動国家『アマステラ皇国』の設計から関わった、この俺様が唯一尊敬する超天才アマステラ・ジーニィにより作られた法律で守られてる。
最初こそ、いろんな物事をこなし持てはやされ良い気分を味わったが、途中からそれが当たり前となりつまらなく感じ始め、この世のほとんどがつまらない物事に思え、偶然城下町で出会ったルーミア以外の全ての物事を無視してきたが……このままでは父の跡を継いで皇帝になれないならしょうがない。
儀式という面倒な物事を、皇位継承者は絶対執り行わなければいけないルールを決めた初代皇帝を恨みつつ、俺様は決意を固めた。
「分かった。その儀式を受ける。それからは……覚えてろ」
ついでにアイサクを睨みつけつつ俺様は言う。
今まで……天才である俺様に物心がついた頃には、すでに蔑むような目を俺様に向けていたアイサクへ、物理的に首を斬る事を遠回しに。
「承知しました」
しかしアイサクは顔色一つ変えない。
この俺様は儀式をクリアできないと思っているのか、それとも元からこういう顔であったのか。分からんがとりあえず俺様はアイサクを部屋から追い出しルーミアを起こそうとし――。
『緊急警報発令緊急警報発令! 敵接近! 敵接近! 国民のみなさんは速やかに現時点でしてる全ての物事を放棄し――』
「ッ!? ひゃ、な、何ごt……キャア!?」
――まさかの警報が鳴り響く。
小さい頃から何度も聞いてきた……俺様は今まで見た事がない謎の敵が来た事を知らせる警報が。
ちなみにその警報は凄くうるさい。
そのせいでルーミアはアイサクを追い出す前に起きてしまい、彼女は慌ててまくれた毛布を引っ掴む。
しかしそれでも、アイサクは揺るがない。
相変わらず蔑むような目を俺様へ向けつつ言う。
「ちょうどいい。殿下、服を着たらすぐに謁見の間に来てください。儀式というかぶっつけ本番になりましたが、今こそその天才ぶりを発揮してください」
※
ルーミアと謁見の間に向かう中で俺様は考える。
なぜアイサクはぶっつけ本番と言ったのかと。
それ以前に謎の敵が迫ってるのになぜ儀式をするのかと。
ワケ分からん。
だがルーミアを不安にさせるワケにはいかん。
「大丈夫だルーミア。必ずや俺様は皇帝となり、あらゆる障害を排除しよう」
「はい、ジュリオ様♡」
ふぅ。
ルーミアはこの俺様に何度触れ合おうが飽きないという俺様の常識の埒外の事象が存在する事実を教えてくれた……俺様の既成概念を破壊してくれた女性なのだ。
彼女だけが俺様の心の安定剤なのだ。
だから離れてしまうと俺様のモチベーションは大幅に下がる。
なのでここは何を言ってでも彼女の心を繋ぎ止めておかねば。
「来ましたね殿下」
謁見の間に着くと、玉座のそばでアイサクが待ってた。
その右手は玉座に向けられてる。座れという事らしい。
執事長のクセにクソ生意気な!
だが文句を言っても何も始まらんので素直に座る。
そしてルーミアはそんな俺様のそばにおそるおそる近づき――。
――玉座の周囲にたくさんのコントロールパネルが出現した……は?
「ええ!? 何ですかこれぇ!?」
ルーミアは目を見張った。
そして俺様の座る玉座のそばで周りを見渡した。
混乱してる彼女が可愛いと思ったのは秘密だ。
「殿下、そろそろ敵が通信をご所望ですのでモニターに映してもよろしいですね」
「っておいィィィィ!? 俺様まだ何にも状況を理解していないというのに勝手にいろいろ決めんじゃねェェェェ!」
『キーヒッヒッヒッ! この国家の代表はなかなか生きが良いな!』
するとその時だった。
俺様の目の前に空間モニターが出現し……一人の少年の顔がドアップで映った。出っ歯でちょいブサイクな少年だ。何というか凄く特徴的な顔だ。
『ん、待て? 確かカヌーク王国からの報告によれば女の操縦者だったような? まぁいい。とにかく、お前のいる「アマステラ皇国」は我がシャウロン帝国の次期帝位継承者候補が一人、このシャウロン・チーがいただく!』
「は!? これはどういう事だアイサク!?」
「どういう事も何も。あなたがリリアン様に今まで押しつけてきた事ですよ」
アイサクはため息まじりに言った。
何の事を言ってるのかさっぱり分からん。
なぜそこで逆徒リリアンが出てくる。
ヤツに俺様が押しつけてただと……退屈な勉強くらいしか押しつけた覚えがないが……?
「ですから、殿下はリリアン様が誘ったお勉強……この自律型移動国家こと『アマステラ皇国』のバトルモードの動かし方のお勉強を今まで断ってきたでしょうが。そしてバトルモードというのは、こうして我が国を侵略せんとする他の自律型移動国家から、自国を守るための形態の一つです。ついでに言わせてもらえれば、警報が鳴ってもリリアン様よりそこの平民女を選び遊んでた殿下に代わり、リリアン様は必死にこの国のためこの場で戦ってたんです。リリアン様との婚約を破棄して、操縦のお勉強をさぼってたツケがいよいよ回ってきたんです。そして皇位継承の儀式とは自律型移動国家『アマステラ皇国』を完璧に操縦してみせる事なのですよ。ドューユーアンダスタン?」
「なんだと!?」
逆徒リリアンがいちいち誘ったお勉強がまさかアマステラ皇国の操縦方法の勉強だっただと!? さらには皇位継承の儀式の内容がこの国の操縦だと!?
なぜそんな大事な事を最初の時点で言わなかった逆徒リリアン!
おかげでこの緊急事態にぶっつけで操縦……いやそれ以前に操縦ってどういう事だ!? なぜ自律してる国家を操縦せねばならん!?
というか他にも自律型の移動国家があっただと!? 初耳なんだが!?
「シャウロン・チー様。申し訳ございませんが、三分だけお時間をいただけませんでしょうか? いろいろあって殿下は初心者なのです」
『許可する』
相変わらず蔑むような目を俺様に向けつつアイサクは言う。
貴様……いろいろと後で言いたいから今はまだ貴様の首を斬らないでおこうじゃないか。今はとにかく敵国の侵略を防ぐ手段を理解せねば。
でもってそんなアイサクの願いを敵国が聞いただと?
バカな。いったい何を考えてるのか天才である俺様にも分からん。
『何があったか知らんが相手が初心者じゃぶっ潰しがいがないからな。それにウチの執事のフーラン・ツェインによれば、実況者と解説者がまだ来ないそうだ。ならまだ戦うワケにはいかんだろ?』
実況者?
解説者?
お前は何を言ってるんだ?
ま、まずい。天才の俺様でさえも理解が追いつかん境地へ展開が移行し始めてるぞ?
だが相手が俺様をこれでもかとナメてる事だけは理解できる……あとで吠え面をかかせてくれる!
「ありがとうございます。では殿下、初っ端から無様に負けて侵略されないためにも、この国の操縦方法に関する、初代皇帝陛下がわざわざ残してくださったビデオメッセージをご覧ください」
「ビデオメッセージだと!?」
まだ状況に追いつけんが、こういう状況が起きりうると予測してたのか。
どうやら俺様が唯一尊敬する超天才、アマステラ・ジーニィはビデオメッセージを残してたらしい!
法律云々に文句を言いたいがメッセージには感謝する!
そしてアイサクは手元のリモコンを操作し……空間モニターの画面が俺様に似た容姿の男を映した映像へ切り替わった。というか俺様ってば、もしやアマステラ・ジーニィの生まれ変わりだったりするのか。ここまで容姿が似てるとなると。
『やぁ、このメッセージを見るという事は、超天才の俺様が造ったアマステラ皇国を、初心者が操縦しなければいけないような危機が起きてるって事だと思うから、二分ほど時間をかけて説明しよう。
このアマステラ皇国のバトルモードは、移動国家そのものが巨大ロボットへ変形するモノであり、そしてその操縦は、コントロールパネル上の数多くのスイッチをメチャ素早くオンオフするという単純にして複雑な方法だ。
ただしスイッチと繋がってる機能は一回の操作ごとに変わる。
え、なぜそんな面倒な仕様にしたかって? それはアマステラ皇国が俺様の最高傑作の兵器でもあるからだ。そしてそれ故に悪用された場合がメチャ心配で……超天才の俺様は考えた。
たとえ鹵獲されても絶対悪用できない方法を。
そして行き着いたのが操縦の手順を度々変わるタイプにし、さらには下手に改造すれば国家が自爆する仕様にする手段だ。
これならば、たとえ鹵獲されたとしても、その操縦者の方が発狂する……超天才の俺様の一族の者でなきゃ操縦は不可能だ。
う~ん、俺様ってば超天才だろう?
というかな、俺様が生きている間に他の国家もマネするように自律型移動国家を造ったワケだが、その中でもこの俺様が造ったアマステラ皇国が一番高性能だから嫌でも他国から狙われるので、すぐ操縦方法をマスターしたまえ。
では健闘を祈る、超天才の俺様の子孫諸君! アデュー!』
「ざけんなクソ先祖!」
俺様は思わず怒鳴ってた!
散々説明しておきながら肝心の操縦方法が分かんねぇんじゃ意味ねぇよ!
「じゅりおさまのごせんぞさまってすごいですねー」
はっ!
あまりにふざけたメッセージのせいでルーミアが棒読みを!
くっ、せめて俺様だけは冷静でいなければ。
そうしなければ、この国はすぐ乗っ取られる……相手がどういう方法でこの国を乗っ取るのかは知らんが穏便な手段じゃないのは確かだ。バトルと言ってたし。
『キーヒッヒッヒッ! そろそろ話は済んだかビギナーくん?』
するとその時だった。
こちらの状況に区切りがついたとでも思ったのか、チーとか名乗るブサイク野郎が再び空間モニターに。今度はドアップじゃなく、向こうの操縦席な玉座も一緒に……ん? よく見るとヤツの周囲にいる誰かもちょっと映って――。
『チー様頑張ってー!』
『やっちゃえチー様ぁ!』
『負けるなチー様ぁ!』
『フレ! フレ! チー様ぁ!』
空間モニターがさらに広い範囲を映し……なんと下着並みの露出度の服を着た、十代から三十代のそれぞれタイプが異なる四人の美女がいた!? ていうかチーと名乗るブサイク野郎が侍らせてるハーレムだと!?
なぜだ!?
俺様のような男ならともかくなぜブサイク野郎がハーレムを!?
『綺麗なだけで何の特徴もない、つまらない相手に負けるなー!』
「ぐはぁ!?」
まさかの口撃!
親父にも言われた事ないのに!?
「あ、あんなの気にしないでくださいジュリオ様! わ、私はジュリオ様の見た目も優しいところも大好きですから!」
「くっ! ありがとうルーミア」
ルーミアのおかげでなんとか立ち直れた。
とにかくこれで元気百倍! さぁそろそろ……試しに操縦してみんと、いろいろまずいかもしれん。
幸いな事に空間モニターには、アマステラ皇国が今どういう姿勢かが分かる3Dな図が描かれてる。
これを参考にしつつ試しに動いて――。
『キーヒッヒッヒッ! こんな簡単に、ウチの婚約者達の言葉で動揺するとは……貴様、本当にビギナーくんのようだな』
うるせぇブサイク野郎!
とにかく今は試運転させろ!
ていうか婚約者達だと!?
向こうは一夫多妻なルールなのか!?
『それが連戦連勝中の私に挑む事になるとは。うぅむ、弱い者いじめしてるようで罪悪感が。ビギナーくん、素直に降伏すれば命だけは助けてやるぞ』
「ふざけんな!」
さらには同情されナメられた!
天才の俺様をよくも下に見たな!
『私がそちらの国を手に入れた暁には、美女全員が、私の婚約者達のように水着姿でいるルールを作るが?』
「なんだと!?」
その服はミズギというのか!? そしてそれを着用する国家だと!?
ふと、ルーミアの方へ視線を向ける……小柄ながらも出てるところは出てるそのスタイル……良いかも。
「ジュリオ様!? 嫌ですよ私あんな下着っぽい服を年中着るのは!」
ルーミアは一瞬で顔を赤くした。
恥ずかしがってる彼女も可愛いが……よく考えるとルーミアの素肌を俺様以外に見せたくない。
「素晴らしいルールだが断る!」
『まぁいい。その国を乗っ取り水着パラダイスにすればいいだけの話だ!』
「このエロガキ!」
「平民女を見て鼻の下を伸ばしたあなたが言いますか」
「黙れアイサク!」
あぁもういろいろグダグダだ!
というかツッコむだけで全然試運転できてねぇ!
『みなさんご覧になってますか? 連戦連勝中のシャウロン帝国と、同じく連戦連勝中であるアマステラ皇国のカントリーバトルが今にも始まろうとしてます!』
んんんん!?
第三者な無線が入ってきた!?
というかカントリーバトルと言ったか!?
まさかそれはこれから始まる戦いの名前なのか!?
『ちなみに実況は毎度おなじみのこの私、アカツキ・ジョニーが担当します』
『そして解説はこのアチシ、シオン・レイラなのらー!』
は!?
まさかブサイク野郎がさっき言ってた実況と解説!?
というか何だこいつら!?
ッ!? よく見ると空間モニターに外の光景が映ってる。
そしてその外の光景の隅に飛翔する謎の物体が……まさか実況と解説!?
『さて、日々カントリーバトルを実況解説し、その正当性を世界へ発信する連中が来たところで試合開始じゃー!』
『あぁ~っとぉシャウロン帝国が変形だぁ!』
ッ!? 実況の人の言う通り相手の国家が変形し……国家部分を顔とした二頭身のロボに!? まさかアマステラ皇国もあんな感じに!? なんか嫌だ!
いや、そんな事を考えてる場合じゃない。
こっちも変形し臨戦態勢を整えんと……どのスイッチだぁぁぁぁ!?
『おや? アマステラ皇国はいまだ変形せず! もしやトラブルかぁ?』
『んんー、無線からして全然動きがないねー。もしかして、相手はビギナーちゃんかな?』
うるせぇ解説者!
それにしてもなんだこのスイッチの多さは!
アマステラ・ジーニィめぇ。悪用されたくないからってこんなワケ分からん仕様にしやがって……いや待てよ。確かアイサクが言うには逆徒リリアンが操縦してたらしい。なら俺様にできんワケがない!
試しに一つスイッチを入れる。
後退しやがった! おい戻れぇぇぇぇ!
『まったく勝負にならん。一気にトドメが相手のためか』
ッ!? 敵国が走ってきた!
まずい、早く反撃しなければやられる!
「うおお! いい加減変形して反撃しろアマステラ皇国!」
俺様はスイッチをオンオフしまくった。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるということわざがかつて極東という地域に存在した国家にあったらしいがとにかくそのことわざ通りに!
するとその時、アマステラ皇国に動きが!
『あぁ~っとぉアマステラ皇国、なんとウイリー……いや違う。ワケが分からない姿勢で奇怪な動きをしたままシャウロン帝国に突撃したぁ!』
『むぅ、あの動きは!』
『えぇーっ!? 何かご存じなんですかレイラさん!?』
『え、いや凄い不気味な動きだなーって』
『率直な感想かーい!』
おいぃぃぃぃ!
漫才してんじゃねぇぇぇぇ!
というか姿勢と動きが変なせいでちょい吐き気が!
『うわー! こんな間抜けな動きでやられるー!?』
おいブサイク野郎!
お前もお前で何言ってやがる!?
『こ、こちらの想像を超える動きで相手を困惑させその隙をつく作戦か。侮ったわアマステラ皇国』
相手がなんか勘違い!
いやこれはチャンス!
相手が警戒している間に、さっきの俺様の操縦パターンから、アマステラ皇国のバトルモードのスイッチを探し……いや待て。ジーニィによればスイッチと繋がる機能は一回の操作ごとに変わるとか……詰みじゃねぇかぁぁぁぁ!
というか逆徒リリアンはこれをどうやって操縦して!?
「リリアン様はたった十分でスイッチのパターンを把握しましたよ」
まるで俺様の心を覗いたかのようなアイサクの発言!?
ていうかそんな事ありえるのか!? 俺様は天才なんだぞ!?
逆徒リリアンがそんな俺様を超えてるだと!?
「雑種強勢という言葉がございます」
ため息まじりにアイサクは語る。
「別の血を入れる事でより強い個体が生まれる……そんな言葉でしたか。遥か昔のことわざなので詳しい意味は分かりませんが。とにかくリリアン様のご先祖様は昔王族でしたが一時的に離れた事で殿下以上の天才に……それだけではないですね。リリアン様は天才であるにも拘わらず慢心せず努力を重ねてきました。なので殿下がリリアン様より下なのは当然です。ちなみにリリアン様を殿下の婚約者に選んだのは、より天才な子孫を作っていただくためです」
「嘘だろ?」
俺様は絶望した。
逆徒リリアンが俺様以上の天才だと?
そして婚約の裏にそんな事情があっただと?
「ジュリオ様! 敵が何か仕掛けてきます!」
だが絶望してる暇はない。
ルーミアが不安そうな声を出した。
俺様はすぐに前を向いて……ブサイク野郎のいるシャウロン帝国が助走の体勢になってるのを見た!
『キェェェェイ! 必殺「スパイラリアンスーサーシュシュタール」!』
しかも操縦席のブサイク野郎が、目から炎が出てるんじゃないかと思うくらいの気迫で、こちらのコントロールパネルより少ないスイッチを連打!?
やばい!
凄い技が来る!
「うぉりゃああああああ!」
だが俺様も負けるワケにはいかん!
ルーミアとの未来のためスイッチをいくつも動かす!
だが余計に変な動きをするだけで全然バトルモードにならん!
くそ! ここまでなのか!?
「殿下、この最悪な状況を打開する手段が一つだけあります」
そしてそんな極限状況の中。
アイサクがボソッと聞き捨てならない事を言ってきた。
「ですがそれは危険すぎます。それを選んだら後戻りは――」
「構わん!」
そしてこの時の俺様は。
初めて極限の状況に追い込まれてたため、変なテンションになってて……正しい選択ができなかった。
「で、その手段は!?」
「殿下達が私の生体部品になる事です」
そしてそれ故に、一瞬……アイサクが何を言ってるのか分からなかった。
すると次の瞬間。
周囲から、先端がとがったケーブルがいくつも伸び、続いて「いやああああ!」とルーミアの悲鳴が聞こえ――。
※
『あぁ~っとぉアマステラ皇国、ついにバトルモードにー!』
『これは勝負が分かんなくなってきたねぇ。にしてもまさかアマステラ皇国があの禁断の選択を――』
「ヴァカな人達」
かつてこの世界には戦争があった。
そして地上に人類は住めなくなった……貴族だけが通える学院で私――センジュ・リリアンはそう教わったけど、事実はそうじゃない。
私の護衛であった、ウゾールムゾール兄弟……実は、自律型移動国家人との間で相互理解ができるかどうかの実験のため、私の故郷に送られた工作員だった二人を始めとする地上人――地上の環境に適応した人類は数多く存在し、さらに彼らは、私を始めとする自律型移動国家人を地上人と同じ体質にする手段を知ってる。
そして、アイサクさんが実はアマステラ皇国のAIの化身である事を含めた多くの情報を、少し前にアイサクさんから知らされてた私は、戦うのが嫌になったのもあり、家族と使用人、さらには私の知人数人と一緒に地上へと、ウゾールムゾール兄弟の導きで、二人の侵入したルートを辿り降りてきたのだ。
「にしてもアイサクさん、いくら殿下達がアフォだからってそこまでやりますか。えげつないですね」
アイサクさんの気持ちも分かる。
もしも敵に乗っ取られたら……兵器としての悪用はされないと思うが、それ以外の空調機能を始めとする機能を、敵国のAIによって弄られるどころか、アイサクさんの人格を消されてしまうのだから。
彼にとっての死も同然なのだから。
だから彼は何としてでも操縦者に勝ってほしいのだ。
故により天才的な操縦者を生み出すために……彼は歴代王族と相談し、婚約者を決めてきたのだ。
そんな中で、私は殿下の婚約者として選ばれたのに……まさかあの平民女を殿下が選ぶとは。
確かに彼女にはいろいろ注意しましたが。
それを彼女が、嫌がらせと認識するとは……少し注意しただけでパワハラと認識される世界ですからしょうがない部分もあるかもしれませんが……同情こそしますが本当にアフォですね二人共。
せめてお勉強から逃げなければ少しは幸せな未来もあっただろうに。
【お嬢様、食事の用意ができましたよ】
【観戦中でしたか……申し訳ありません。未練があったのに無理やりお連れして】
「いいえ、もうあの国に未練はないわ」
ウゾールムゾール兄弟が地上人特有の能力【心の声】で私を呼ぶ。
そしてその声に、私は笑顔で答えた。
アイサクさんの反理想郷から連れ出してくれた二人に心の中で感謝しつつ。
イメージとしてはデス・シティーロボっぽい感じかな。
ちなみに個人的にデス・シティーロボがスパロボに出たら面白そうだと思う(ぇ