双子のパンダの白黒な運動会
この作品は『双子の白熊猫のきもち』https://ncode.syosetu.com/n6239hx/の二次創作です。作者の歌川 詩季様から許可を得ています。
運動会といいつつ、パンネタばかりです。
今日は運動会。
あまり乗り気でない妹パンダ。それでもがんばって白パンダのままを保っています。
今日は運動会!
朝から白パンダのあたし、みんなと一緒に運動場で始まるのを待ってる。
お兄ちゃんと違って、あたしははっきり言って運動は全然なんだけど。頑張ってるみんなを応援することはできるからね。
黒パンダになりそうなのを、楽しいことを考えてごまかしながら。きれいに晴れた空を見上げた。
お兄ちゃんとあたし、双子のパンダ。
今日は揃って白パンダのあたしたちだけど、逆の色の黒パンダにもなれる。
お兄ちゃんは自分で色を変えられるけど、あたしは自分の気持ちですぐに色が変わっちゃって。
嬉しい時は白パンダ、悲しい時は黒パンダのあたし。でもそろそろ自分でちゃんとなりたい方になれるようにって、そう思うんだけどね。
いつもよりはっきりひかれたトラックの白い線の中に集まって。別にオフダは貼られないけどみんなも先生も並んで話を聞いて、体操して。
最初のかけっこに出ないとだから、席に戻らず入場門に向かう。
ぽんと背中を叩かれて振り返ると、お兄ちゃんと甲斐犬のカイくんがいた。
「ふたりともがんばれよ」
そう言って席に向かう、おんなじ白組のお兄ちゃん。赤組のカイくんもかけっこに出るから、そのまま一緒に入場門に向かう。
「楽しみ?」
カイくんにそう聞かれたから。
「かけっこは楽しくないけどね」
正直に答えたら笑われた。
だって。どんどん小さくなるみんなの背中を追いかけるのは、ちょっと寂しくなるんだよ。
いつまでも追いつけない自分が悲しくなるんだよ。
でも。それでも頑張って走ったら、みんながゴールで迎えてくれるから。
短い距離でホントによかった。
ゴールが決められてなかったら、あたしはいつまでもみんなに追いつけないもんね。
なんだか走る前から悲しくなっちゃって。忘れようと思ってブンブン頭を振ってたらカイくんにまた笑われたけど。
今日はみんなを応援するんだから。
白パンダでがんばるって、決めてるんだよ。
入場門のところでは、灰色の小さな身体がぴょこぴょこ忙しそうに駆け回ってた。
「スーちゃん!」
スコティッシュフォールドのスーちゃん。クラス委員だから、体育委員のお手伝いをしてるんだよね。
あたしの声に気付いたスーちゃんは、ぷにぷにの手を挙げておいでおいでとしてくれる。
「こっちに並んでて〜」
あとで行くからって。スーちゃんはまたパタパタ走っていっちゃった。
忙しそうだなぁって思いながら、スーちゃんに言われたところに並ぶ。
「じゃあ勝負だな」
隣のカイくんがそんな事を言ってくるけど、あたしはお兄ちゃんじゃないんだから勝てるわけないよ。
お兄ちゃんとカイくん、今日は朝から負けないからなってふたりで笑ってた。仲良しなのに、なんでもすぐ勝負するんだよね。
あれ? 仲良しだから勝負するのかな?
わかんないけど。どっちだってあたしにはムリだよ。
かけっこがなんとか済んだら、しばらくはみんなを応援するだけ!
体育委員のプラチナキツネのプッチちゃんは、走るのはもちろん運動はなんでも得意で。障害物競走でお兄ちゃんといい勝負してる。ふたりとも、途中のとび箱も軽く跳び越えちゃった。
とび箱って中身がからっぽだけど。そのまましまっておくのもなんだし、倉庫にある時くらい何か入れておいたらいいのにね。
あたしだったら何入れようかな。
隠し場所にぴったりだから、こっそり買った新製品のお菓子を入れておこうかな。
でも隠さなくったって誰も勝手に食べたりしないから、あんまり意味がないかも。
そんなことを考えてる間にお兄ちゃんたちはゴールしてた。
あれ? どっちが一位だったのかな?
あたしが出る次の競技はパン食い競走。入場門に行くと、端に準備用の籠に入れられたパンが置いてあった。
何パンが好きかって聞かれたから、たくさん答えておいたんだけど。籠に入ってるパンにはやっぱりおさつぱんもクリームコロネもないみたい。メロンパンもホイップクリームは入ってなさそうだし。
でも仕方ないかな。秋なのに、お昼が近くなったら暑いもん。夏みたいにタルトでも焼けちゃいそうなほどじゃないけど、クリームは溶けちゃうもんね。コロネだったらほどかなくったって零れちゃう。
普通のメロンパンに、ジャムパンに、あんぱんかな。
ジャムパンもあんぱんも変わったジャムやあんだと嬉しいけど、見てわかるようにしてほしいよね。普通のあんこも好きだけど、おさつあんだと思って食べたのに粒あんだったりしたらびっくりするもん。見分けるためにごまとかちっちゃいつぶつぶとか形が変わってたりとかするけど、お店によって違うから、結局わかんないんだよね。名札つけてくれたらいいのに。
そんなこと考えてる間にあたしの番になってて。よーいどんで走り出した。
パンは走るレーンのを取ってねって言われてたっけ。あたしのレーンにはメロンパンが袋ごと吊られてた。
メロンパンだったらカスタードとかホイップが入ってるのがいいけど。そういえばどうしてメロンパンっていうんだろ? 昔はメロンが入ってたのかな? それとも網模様だから? いい匂いだから?
わかんないけど。おいしいからいっか。
一番最後にメロンパンのところに到着したあたし、真下でぴょんぴょんしてるうちに袋をくわえることができたから、えいって引っ張った瞬間。
あたしの目の前、破れた袋から出ちゃったメロンパンが、ゆっくり落ちていくのが見えた。
ぽとりと落ちる、はだかんぼのメロンパン。
あれ? あたしここからどうすればいいのかな?
手を使っちゃだめなんだよね。それなら落ちちゃったメロンパン、どうやってくわえたらいいのかな。土も払えないし、どうしよう。
わからないよって思ったら、急に我慢してた分まで悲しくなっちゃって。
周りがざわっとしたから、気がついた。
メロンパンの前にあるあたしの足、白くなってる。
あたし、こんなところで黒パンダになっちゃったんだ。
どうしよう。
パンは落ちちゃったし。黒に変わっちゃったし。
あたし、ここからどうしたらいいんだろう。
何か聞こえて顔を上げると、白組の席からトラックまで出てきたお兄ちゃんがあたしのうしろを指差してる。
振り返るとプッチちゃんがすごい勢いで走ってきてて。あたしがくわえたままの空っぽの袋を引っ張って取って、代わりに新しいメロンパンの袋を突きつけてきた。
「取るとこまではクリアだから! これくわえて」
よくわからないまま、言われた通り袋をくわえる。
「大丈夫! 行って!!」
ぽん、と背中を叩かれて、あたしは走り出した。
もう前には誰もいないけど、ゴールまで走る。
視界の端にカイくんの姿。赤組の席はゴールの向こうなのに。
ゴールにはほかの子たちが待っててくれて、大変だったね、びっくりしたねって言ってくれた。
皆に声をかけられながら振り返る。
お兄ちゃんは席まで戻ってたけど、気付いて手を振ってくれた。
プッチちゃんはスーちゃんと入場門のところでこっちを見てた。
カイくんはちょっとほっとした顔をしてた。
落ちちゃったメロンパンは、もう片付けられてた。
退場門から出て戻る途中、カイくんとすれ違う。
「おつかれ」
今は笑ってくれてるけど。また心配かけちゃったんだよね。
ごめんねって言いかけて。ちょっと迷って。
「ありがと」
お礼を言ったら、何も、って返された。
カイくんらしいよね。
席に行く途中に入場門のうしろを通るから、プッチちゃんにもお礼を言いにいかないと。
忙しいかな、と思ってうしろから覗いてると、気付いたスーちゃんと一緒にあたしのとこまで来てくれた。
「びっくりしたよね」
スーちゃんがそう言ってあたしの手を握った。
「スーちゃんが気付いてくれて。もっと早く行けたらよかったんだけど」
プッチちゃんが黒い耳をへちょんと下げて、ごめんねと言ってくれる。
優しいふたりに、なんだか涙が出そうになった。
「ううん。ふたりとも、助けてくれてありがとう」
スーちゃんの手を握り返して、もう片方の手でプッチちゃんの手も握って。
あたしが笑ってそう言うと、ふたりとも安心したようにどういたしましてって返してくれた。
白組の席に戻ると、お兄ちゃんは何も言わないで頭を撫でてくれた。
「…黒くなっちゃった」
「そうだな」
お兄ちゃんのあったかい声に、じんわり涙が滲む。
「でも、それがお前だろ」
呆れたようじゃなくて。ただ、あたしをあたしと認めてくれてるような。そんな言葉に聞こえて。
「うん」
それ以上、なんにも言えなかった。
最後はリレー。白組のアンカーはお兄ちゃん。赤組のアンカーはカイくん。
あたしは黒パンダのまま、がんばれって応援する。
結局、黒パンダになっちゃったけど。
まだ、そんなあたしだけど。
ちょっとずつ、なりたいあたしになっていけたらいいな。
お兄ちゃんとカイくんに、それぞれバトンが渡った。
競り合うふたりは真剣だけど嬉しそうだから。
そんなふたりに負けないように。
あたしもめいっぱい応援した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
イラスト 歌川 詩季様
『その後のお話』
運動会が終わって、みんなで片付けてる途中。気付いたあたしはびっくりして二度見した。
運動場の隅っこでメロンパンが動いてる!!
慌てて近寄ってよく見たら、メロンパンの周りに黒い点々がたくさん。
黒いのって…アリさん?
アリさんが、あたしが落としたメロンパンを持っていってくれてる!
落ちちゃったメロンパン、アリさんに食べてもらえるんだね。
よかったなぁって思ってたら。自分の腕が黒くなってるのに気付いた。
またこんなところで変わっちゃったけど。でもいいや。嬉しいんだから。
がんばるアリさんを応援してたら、みんながどうしたのって来てくれたから。
みんなにも教えてあげないとだよね!
お読みいただきありがとうございます。
この作品は『双子の白熊猫のきもち』https://ncode.syosetu.com/n6239hx/の二次創作です。
歌川 詩季様。
二次創作、そしてネタ使用の許可をいただきありがとうございます。
双子のパンダももう第六弾!
前回少し成長したように見えた妹パンダですが。
一進一退。まだまだですかね。
これからも少しずつ重ねて参りますので。
また妹パンダたちに会いに来てもらえたら嬉しいです。
10/21追記。
歌川様から救いの手をいただいたので『その後のお話』を追加しました。
歌川様! ありがとうございます!!
歌川 詩季様作 妹パンダとニャンドレ
歌川 詩季様作 T'N'Aロゴ