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Raven  作者: 楢弓
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1−1:襲撃

遺跡。

はるか昔に滅びた古代の文明が遺した建造物だ。

地下深くまで広がる迷宮のような物からこじんまりとした家くらいのサイズで地上に露出した物まで大小様々な遺跡がこの世界に点在している。

遺跡の内部は凶暴化した野生生物の住処になっているだけでなく、侵入者を拒むようなトラップが至るところに設置されており、遺跡探索に向かって帰らなかった者も少なくはない。

だというのに遺跡へと足を踏み入れる人間が減らないのには理由がある。

遺跡の最奥部には古代人が使用していたアイテム、遺物が保管されているのだ。

生活を豊かにする画期的な装置や強力な殺傷能力を有している武器など様々な遺物が発見されており、中には使用方法も用途も不明な物体もあるが、いずれにしても今の時代よりも遥かに進んだ文化の貴重な資料として相当な価値がつけられていた。

遺物一つを持ち帰るだけで一生遊んで暮らせる大金を手に入れることが出来る。

そんな話を聞かされたら多少のリスクを犯してでも自身の運を試してみたくなるのが人間というものなのだろう。

後を絶たない命知らず達は、いつしか冒険者と呼ばれるようになっていった。


風切り音に合わせて体勢を低くして横に飛び退く。

先程まで俺が立っていた場所に巨大ななにかが振り下ろされ、重々しい音とともに遺跡の床が砕け散った。

俺は右手を構えて襲いかかってきた物体へと顔を向ける。

人間の胴体位はありそうなほど太く、金属のように硬い尻尾。

うねりを打ちながらゆっくりと宙へもたげる姿はさながら獲物を逃がした大蛇のようだ。

尻尾の先端には鋭い棘があり、その禍々しい色だけで猛毒を含んでいる事が理解出来る。

長い尾の根元へと視線を移していくと、凶暴なそれには似つかわしくない鶏に似た生物がこちらを威嚇するように鳴き声を上げていた。

野生でもよく見かけるコカトリスだ。

だが、俺を見下ろすように目の前に立ちふさがっているコカトリスは遺跡の外にいるそれとサイズが大きく異なっていた。

遺跡の影響で凶暴になってしまう野生生物は珍しくないが、ここまで肥大化しているとなると話は別だ。

俺は右手に装着した遺物『変動式光線砲』へと意識を集中させる。

円筒状の遺物が輝き、コカトリスへと向かって光の塊が放たれた。

光弾が胴体へと直撃すると、鳥の怪物は雄叫びを上げた。

ダメージはあった。

しかし、俺が全力で撃った光線は白い羽毛を黒焦げにする事は出来ても、相手の体を貫通する事は出来なかった。

予想以上の防御力だ。

先程から何度か攻撃しているがその殆どが有効打になっていない。

巨大化した影響も少なからずあるだろうが、恐らくはヤツが体内に取り込んだモノが作用しているのだろう。

この遺跡へとやってきた目的が目の前にある事を確信する。

だが、どうやって倒せば良いのだろうか。

流石に全力で放った光線は効いている。

しかし、倒すためには少なくともあと数発は喰らわせる必要がありそうだ。

道中での戦闘もあり既にかなりの生命力を使ってしまっている。

全力で撃てたとしてもあと一発が限度だろう。

確実に相手を倒すことが出来る弱点を見つけ出す必要がある。

俺は自身の遺物に左手を添えながら、敵との距離を取るために移動しようとした。

「グギャアァァッ!」

怯んでいたコカトリスが俺の動きに触発されたのか、雄叫びを上げながら突進してきた。

あの質量ならかすっただけでも大ダメージになるだろうが、大してスピードはないので簡単に避けられる。

あんなバタバタと走るよりもリーチを活かして尻尾で攻撃を続けた方がこちらを消耗させられただろうが、体が大きくなっても所詮はただの野生生物。

冷静な分析も出来ずに周囲に反応して襲ってくることしか出来ないようだ。

俺は直進してくるコカトリスを躱すと、そのまま遺物を装着した右腕を構えた。

「アラン! 上ッ!」

背後から突然聞こえてくる女性の叫び声。

声に従い急いで視線を頭上へ向けると、コカトリスの尾から放たれた鋭利な棘がすぐそこまで迫っていた。

俺は冷静に構えた遺物の照準を敵本体から飛んでくる物体へと合わせ、光線で撃ち落とす。

棘の硬さはコカトリス本体ほどではなく、通常の攻撃で砕け散っていった。

急な遠距離攻撃に意表を突かれたが、早い段階で気がつけたので対処することが出来た。

飛び道具を防がれたコカトリスはというと、俺に躱されてそのまま壁に激突し一時的に意識を失っていた。

気絶していたのはほんの僅かな時間ですぐに起き上がってきたが、そのスキを見逃すほど素人ではない。

俺は一気に相手との間合いを詰めて巨大な体を駆け上がる。

コカトリスは体をジタバタ動かして振り落とそうとしてきたが、俺は左腕と両足で首にしがみつくと直ぐ側にある赤く露出した鶏冠へ向けて全力の一撃を放った。

光線が直撃し鶏冠が弾け飛ぶと、コカトリスは暴れるのを止め、急にブルブルと震えだした。

しがみついている首元の震えが大きくなっている事を察知した俺は急いで手を離してその巨体から滑り降りる。

俺が地面に足をつけたと同時に、コカトリスの肉体はひときわ大きく震え、そして破裂した。

顔と胴体をかばうように両腕を体の前に出したが、コカトリスの内部から発生した衝撃波は凄まじく、俺の体はまるで風に吹かれる木の葉のように吹き飛ばされ壁に叩きつけられたのだった。

「アランッ!!」

薄れゆく意識の中で見覚えのある人影がこちらへと駆け寄ってくるのが見えた。

心配そうにしている彼女を安心させる為に名前を呼ぼうとしたが思ったように口が動かず、そのまま気を失ってしまった。


意識を取り戻しゆっくりと目を開くと、遺跡の天井と壁が視界に映った。

どれ位気絶していたのだろう。

起き上がろうとしたが体にうまく力が入らない。

わずかに頭は動いたが、ふと気がつくと後頭部が柔らかい感触に包まれていた。

「あ、やっと起きた」

無機質な風景に少女の顔がひょっこりと現れた。

俺の顔を上から覗き込んでくる姿を見て、その少女に膝枕をされている事にようやく気がつく。

誰に見られているわけでもないが羞恥心を感じて、なんとか体を起こそうとした。

「もうちょっとじっとしていて。回復、まだ終わってないんだから」

少女はそう言って俺の頭を撫でるように抑えながら、もう一方の手に持った遺物を握りしめて瞳を閉じた。

すると、俺の体がポカポカと熱を帯び始めた。

心地よい感覚にまた意識が飛びそうになるが、少女と触れ合っている事による緊張で辛うじて気絶は免れた。

光線を撃つために消費した生命力が急速に回復し、ちょうど手や足が自由に動かせるようになったタイミングで少女はゆっくりと目を開いた。

「これで全回復出来たと思うけど、どう? もう少し生命力を分けた方が良い?」

「いや、大丈夫だ。いつもすまない、メディ」

俺は緊張を誤魔化そうとそっけなく感謝を伝えると、彼女が反応する前に上体を起こした。

まるで避けるように離れた俺を、メディはちょっと怒った口調で言葉を返した。

「ほんと、いつも無茶ばっかり。私が一緒にいて良かったね? 幼馴染が巫女な上にこんな便利な遺物を持ってるなんて、普通じゃありえないから」

彼女は手にした自身の遺物を振るようにして見せてきた。

メディが所持している遺物『携帯型転送装置』は範囲内にいるそれぞれの対象から指定した物体を移動させる事が出来、彼女はそれを利用して自身の生命力を俺に分け与えて回復してくれたり、俺が食らってしまった毒や状態異常を吸収してサポートしてくれている。

通常の人間であれば回復する自分の方がダウンしてしまうところだが、祝巫女と呼ばれているメディは他人よりも生命力が強く、その豊富な生命力で状態異常も無効化する事が出来るのだ。

先程のように弾切れや多少の怪我を気にせず戦闘が出来るのも、彼女の手助けがあってこそではある。

だが、それを認めてしまうとメディに対して、冒険者である俺と共に遺跡を探索する正当性を与えてしまう事になる。

それだけは避けたい俺の口からは皮肉めいた言葉が出てきた。

「随分恩着せがましい言い方だな。別に誰も着いてきてくれなんて頼んだ覚えはないぞ」

「はいはい。そうですね。私が勝手に後をつけているだけですよーだ。まったく。そんなんだから心配になっちゃうんじゃん。ほら、座って。毒がないか調べるよ」

彼女に促され、渋々俺はその場に腰を下ろした。

目の前に座ってさっきと同じように遺物を手に瞳を閉じるメディを見つめながら、俺はどうやったら彼女が一緒にいる事を諦めてくれるのか考えを巡らせた。

彼女の言う通り、共に遺跡巡りをしてくれるのは助かっている。

しかし、遺跡に足を踏み入れるということはそれだけ危険が伴う。

凶暴化した野生生物だけならまだマシな方で、遺跡の奥にある遺物を手に入れるために邪魔な同業者を襲う悪徳冒険者や外部からの侵入者へ対する迎撃がしやすい遺跡を根城にしている盗賊などもいる。

そして、そいつらを裏から操るアイツラも……

遺物を利用し各地で悪事を働く犯罪者集団。

両親の仇を思い出し、目を瞑って俯いた。

つい手に力がこもる。

冒険者として遺物を追い続けていればいずれ奴らの元にたどり着くだろう。

必ず復讐を遂げると固く心に誓うと共に、俺の復讐の為にメディを危険な目に合わせるなと内なる自分が叫んでいた。

俺は小さく息を吐いて、いつものように一度問題を棚に上げることにした。

そう言えば、俺が倒したあのコカトリスはどうなったのだろう。

「メディ。さっきのヤツは……メディ? どうした?」

彼女に尋ねようと顔をあげると、メディは苦しそうに自分の胸を抑えていた。

「おい! 大丈夫か? 一体何が……」

身を乗り出して彼女の両肩を掴む。

メディは返事どころか呼吸もままならない様子で激しい息遣いとうめき声を発していたが、俺が呼びかけているうちに痛みが収まったのか次第に落ち着いて息をし始めた。

「……ごめん。なんか、急に胸が締め付けられたみたいに感じて……。もう大丈夫だから……。心配しないで」

「そんな事言われて心配しないわけないだろ。一旦遺跡から出て街に戻るか?」

「本当に、大丈夫。もう嘘みたいになんともないから」

焦る俺を落ち着かせようと笑みを作ってみせるメディだが、その笑顔は弱々しく顔色も悪いままだった。

一体何が起きたのか。

彼女は遺物を使って俺の状態異常を自分に移していた。

俺が食らった毒かなにかが彼女に影響を与えたのだろうか。

だが、それならまず俺に何らかの影響があるはずなのだが……

メディの体調が悪くなった理由が分からないため対処方法に迷っていると、彼女は元気な声を取り繕って俺に話しかけてきた。

「そうだ! さっき、なにか私に聞こうとしてなかった? なにか知りたい事でもあるの?」

「あ、あぁ。俺が倒したあのコカトリスについて尋ねようとしたんだが……」

「それなら、最後の爆発で体も尻尾も羽毛も綺麗サッパリ消滅したよ。残ってるのは、ほら。あれだけ」

彼女が指さした先へ目を向けると、遺跡の床に少し大きな箱のような物が置かれていた。

俺の肩幅よりもちょっと狭い位の正方形の箱だ。

表面には古代文明のものと思われる文様が青白い光の筋となって浮かび上がっている。

間違いない。

遺物だ。

先程のコカトリスがなにかの拍子に異物に触れてしまい、体の中へと取り込んでしまったのだろう。

あの大きさと光線も効かない頑丈さは恐らくその影響によるものだったのだ。

俺は近くに置かれていた自分の遺物を右腕に装着しながら、一歩ずつ四角い箱に近づく。

意思のない遺物が襲いかかってくる、などとは考えていないが、警戒はしておくに越したことはない。

遺物のすぐそばまでやってくると、俺は改めて足元にある古代人の遺産を確認した。

魔法でもかけられているのか、青い光は文様に沿って箱の表面を走り回っている。

その神秘的な光に魅入られてしまったのか、俺は背後でメディが制止しているのも聞かずに、左手で遺物に触れてしまった。

その瞬間、箱の全ての文様が一斉に光を放ち、俺を包み込んだ。

光の奔流に思わず目を閉じる。

俺の名前を呼ぶメディの声が遺跡中に鳴り響いた。

すぐに光は収まり、俺は片方ずつ瞳を開いた。

周囲を見回して、視界がおかしくなっていることに気がつく。

ピントを合わせていないのに目の前の壁や天井、角に生えている草などがハッキリと見ることが出来る。

それに、なぜか古代文明の文様のような物が宙に浮いて見えた。

先程の光で目がやられてしまったのかと思い、左手を前に出して確認しようとした。

すると、前に出した自分の左手は白い鎧のような物に覆われていた。

他の冒険者が身につけているような無骨でガチャガチャした物ではなく、角のない丸みを帯びたフォルムで手袋かのように隙間もなくしっかりと手にフィットしている。

視線を下げると左腕だけではなく両足や胴体も同じような白い鎧を身につけていた。

右腕に装着していた遺物とは余計な干渉することなく、最初から同じ遺物だったかのように一体となっている。

着ている感覚もほとんどなく、まるで鎧というよりも全身を覆っている服のようだ。

ということはもしや……

俺は左手で顔に触れようとすると、顔の前に何かが当たった。

鎧と同じようにヘルメットも被っていた。

どんなヘルメットなのか流石に見ることは出来ないが、手で触った感触では金属のように硬く、それでいて流線型のデザインをしている。

自分の身に起きた変化に驚いていると、後ろから声が聞こえた。

「アラン?」

振り返ると、不安そうな顔をしたメディが立っていた。

俺は問題ないというように手を上げて応える。

「びっくりした。急にすごい光が遺物から出てきて、それが収まったらアランが立ってた場所に変な格好の不審者がいるんだもん」

「全身を見れていないんだが、そんなにおかしな姿なのか?」

「うーん、よく見たらそうでもないかな? 前衛的だけどシュッとしてて人によっては格好良く感じるかも? でも、遠目から見たら人間っぽくはないね。人っていうより……鳥?」

さっき戦った敵の影響でそう見えているだけではないのかと思ったが、確かに口のあたりの出っ張りは嘴にも似ており、少し膨らみながら背中へとなめらかに繋がる後頭部は鳥の首周りに近いとも言える。

もしかしたら、古代人が鳥をイメージして作成した全身装着型の鎧なのかもしれない。

一人で納得していると、メディが急に体勢を崩した。

倒れてしまう前に慌てて抱きとめると、メディは先程のように弱々しい声で謝ってきた。

「ごめんなさい……。ちょっと、突然力が抜けちゃって……」

「……遺跡探索で疲れが溜まっているのかもな。遺物も手に入れたことだ。すぐにここから立ち去……」

「邪魔だ」

体の芯まで響き渡るように低く、そして恐怖で凍りつくような冷たい声がヘルメットを通して鼓膜に届いた。

振り返るまもなく左腕に衝撃が走り、俺の体は吹き飛ばされた。

地面に倒れるが、すぐさま起き上がり右腕を構える。

メディのすぐそばに黒い鎧を身に纏った人物が立っていた。

鎧や右腕の武装は俺が身につけている遺物にそっくりだが、あちこちに戦闘でついたと思われる傷がついている。

大柄で美しくもどこか不吉な漆黒のその姿は鴉を想起させた。

メディは目を見開きその人物から離れようとしたが、一歩踏み出す前に黒い左腕に囚えられてしまった。

「いやッ! 離してッ! うっ!?」

メディは必死に抵抗しようとしたが、また体調不良に襲われたのか苦しそうな声を上げて胸を抑えた。

漆黒の人物はそんな彼女を見ながらなにか思うところがあるのか小さくつぶやく。

「……まさか……いや……そんなはずは……」

「メディから離れろッ!!」

その人物が彼女を抱き寄せる仕草を見せた為に俺は頭に血が昇って、全力の光線を撃ち込んでしまった。

撃ってからこのままではメディも傷つけてしまう事に気がつき、一瞬で血の気が引いた。

しかし、俺の行動を読んでいたのか、漆黒の人物は光り輝く右腕の砲門をこちらへと向けていた。

そして、その光を開放すると俺の渾身の一撃をそのまま飲み込んでしまうほど太く、強力な光弾が放たれ、油断していた俺に直撃した。

先程殴り飛ばされた時とは比べ物にならないほどの衝撃で壁に叩きつけられる。

あまりのダメージにうつ伏せに倒れたまま身動きができないでいると、メディを抱えた漆黒の人物が俺に近づき、吐き捨てるように言葉を投げかけた。

「お前に彼女は救えない。一つ忠告してやる。追ってくるな」

それだけ言うと、その場から立ち去ろうとする。

俺は喋ることも出来ずに、ただその後ろ姿を見送ることしか出来なかった。

お読み頂きありがとうございました

今回の話は全体的にシリアスな展開を予定しています

大きく分けて前半と後半の二部構成にするつもりで、今月中には前半を投稿し終えたいとは思っています

完結自体はいつになるかわかりませんがまったり進めていければと考えていますので、もしよければお付き合いいただけると幸いです

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