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義母との遭遇で気持ちがささくれたまま神殿に到着する。
白いローブを汚さないように馬車から降り、神殿の騎士に護衛されながら歩いていると礼拝堂に来ていたであろう人々がわっと寄ってきた。ミュリエルはこの国では珍しい黒髪なのもあり、目立つのだ。
「ミュリエルちゃん! 結婚おめでとう!」
「これ、お祝いだよ!」
祝福を口にしながら、花やお菓子をぐいぐい渡してくる。さっきまで義母のせいでささくれた気持ちはあっという間になくなってしまった。
「みんな、ありがとう」
誰が持ってきたのだろう。カゴまで用意され、その中に花や食べ物が山盛りになる。騎士たちが運びきれないほどのカゴの数になっても祝福ムードは続く。神官達も集まってきてカゴを運んでくれた。
もみくちゃ状態から一時間ほどたってやっと解放され、仕事にとりかかろうとする。
「ミュリエル様。神殿長がお呼びです」
「え? では今すぐに向かいます」
朝の祈りをこなすために移動していると、神官が走って来た。意外に思いながら神官に先導されて部屋へ向かう。
「聖女様、新婚旅行から帰って来たんだって」
「いいなー、リゾートでしょ? 一回くらい行ってみたい~」
「婚約者だった公爵家のご令息と結婚したんだよね? いいなぁ、玉の輿」
「もともと聖女様って伯爵家のご令嬢でしょ? 玉の輿だけど伯爵家から公爵家に嫁入りってないことはないでしょ。そりゃあ珍しいけどさ」
途中で女性たちの会話が聞こえる。立ち止まると先導していた神官が困ったような顔をした。
「あのような下働きの娘たちのお喋りを聞かなくても……」
「ちょっと聞くだけよ」
壁に隠れながら人差し指を口に当てて神官に静かにするよう合図をする。壁の向こうでは神殿の下働きの女の子たちが、掃除の手を止めずにおしゃべりに興じている。掃除の手が止まっていたらさすがの神官も注意していただろう。
「私、お祝いに頑張って刺繍したハンカチ持ってきちゃった! ミュリエル様受け取ってくれるかなぁ?」
「たくさんお祝いもらってるみたいだから、あんたの刺繍したハンカチなんて相手にされないわよ」
「えー! そんなぁ」
「そんな意地悪言ってないで。ミュリエル様なら受け取ってくれるよ。優しいもん」
きゃあきゃあと迷惑になりそうな声量だが、浮かれた様子が伝わってくる。楽しそうな様子に思わずミュリエルは笑みを浮かべて立ち去ろうとした。
「何で他人の結婚にそんな浮かれてんの。大して治癒魔法も使わないのにセージョ様、セージョ様ってバッカみたい」
浮かれた空気に水を差す、冷たい声が壁の向こうから発せられる。ミュリエルもさすがに歩み去ろうとした足を止めた。
あの声は下働きのノンナだろうか。あれだけ賑やかだった少女達が一瞬シンと静まる。
「聖女様なのは本当のことでしょ。治癒魔法が使えるし神殿が認めてるんだから。それに私達にも良くしてくれるんだからそういう人の結婚を喜ぶのは当たり前だよ」
「あの人がやってるのは人気取りの偽善でしょ? いっつもニコニコヘラヘラしてるんだから」
「ノンナ、自分が結婚できてないからって僻むのは良くないよ」
「そうだよ! そんな悪口言ってたら不幸になっちゃうよ! すっごく困った時に治癒魔法は必要なんだよ! お医者さんはあんなにすぐ治してくれないよ!」
「はぁ? あんた達がセージョ様って崇めるのがおかしいでしょ! それに私だってもうすぐ結婚するんだから僻んでるわけないでしょうが!」
下働きの一人、ノンナの発言によって少女達は言い争いを始めてしまった。いつものことだ。私はなぜかノンナに毛嫌いされている。いや、ノンナだけではない。聖女という存在に否定的な人はいるのだ。
神官が注意しようと出て行くのを止めて、ミュリエルは壁の向こうに声をかけた。