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いつもお読みいただきありがとうございます!

「戦争の際、当時のスタイナー公爵が怖気づいて敵前逃亡したことで『腰抜けスタイナー』のあだ名がつきました」

「あぁ、そういうことか! 一番重要な局面で逃げたら戦争が終わって今もなおそう呼ばれるのは仕方ない。もしかしてその戦いで我が国は敗戦したんだったか?」

「非常に危なかったと聞いています」


 ルーシャン殿下は納得すると、ふと別のことに興味がいったのか資料を漁り始める。


「でも、君はそんなレックスが好きなんだろう? 昨日みたいに腰を抜かして助けてくれなくても」


 ウワサが回るのが早い。騒動の詳細をしっかり知っているようだ。


「はい。彼がシシリー嬢の肩を持ったわけでもないですから」

「なるほど? 守ってくれなくても、相手の女の肩を持っていないから気にしないと。君としてはシシリー嬢だっけ?が悪いと思ってる?」

「一度デートしただけでレックスに執着する令嬢は哀れです。しかもそれだけで結婚を夢見るなんて、頭の中が幸せな方だなと」

「でも、レックスだって悪いかもしれないじゃないか」


 ミュリエルは思わず、相手が王族だということを忘れて睨んだ。


「おー怖っ! そんな怒るなよ。レックスがどんな対応をしたのか俺は見てないんだから。学園で一緒だったけど、ハッキリ物を言わないタイプだったし……どうせハッキリ断らなかったんだろうと予測がつくけど」

「そうですね、レックスは優しいので」

「レックスに何か思うところはないわけだ?」

「ハッキリ言えばいいとも思いましたが、あの令嬢は面倒なタイプだったので仕方がないかと」

「仕方がない……ね」


 ルーシャン殿下は魔力測定器をもう一度引っ張り出した。


「時間が経ったから一応、もう一度魔力を測ろう。何か変化があるかもしれない」


 ミュリエルが手を置いて魔力を込めると、四角い水晶の魔力測定器が淡く光って殿下の方に数値が現れる。


「さっきと同じか。なるほど。昨日あの騒動があって……前も一度こんな風に大幅に測定値が上がったことがある。あの時を覚えてるかい?」


 ルーシャン殿下に問われ、ミュリエルは頑張って思い出そうとするが思い出せない。


「覚えてないか。俺はしっかり覚えてる。なんたって血を拭くなんていう貴重な体験をしたのはあれが初めてだから」

「あぁ……あの時ですか……すみませんでした。意識がハッキリしていない状態で魔力測定をしていたので」

「あれを忘れるのは逆にすごい。ま、あれだけ血を失えば治癒魔法が自動でかかっているとはいえ意識は朦朧としていただろうが……」

「あの状態で魔力測定を強行する殿下もどうかと思いますけど……」

「それこそ仕方がない。治癒魔法の研究のため、そして我が国の将来のためだからな」


 殿下は慣れた手つきで魔力測定器を包んで片付けた。


「なぁ。怒らないで聞いて欲しいんだが」

「何でしょうか?」

「うん。すでに怖いから言うのやめようか」

「今更やめないでください。ここまであれこれ聞いておいて」


 ルーシャン殿下の見た目は整っているが、怜悧な容貌ではなく優しい印象を与える。なのに急に真面目な表情で話しだすからミュリエルは身構えた。


「愛にはいろんな形がある、と思う」


 意外な言葉にミュリエルはどう反応していいのか分からない。


「君のレックスへの愛は疑いようがない。でも、君は愛することに固執していて愛されることには無頓着だ」

「そうでしょうか? ちゃんと愛されたいと思っていますよ?」

「俺からそう見えるってだけの話。なんとなく、まだ確証なんて全然ないが。君の魔力にはきっと愛が関係しているはずだ。ほんっとに結婚式の後に強行して魔力測定しとけばよかった」

「それだけはやめてほしいです」

「だから、しなかっただろう? パーティーで別室に呼び出してやってもよかったんだ。ま、終わったことは仕方ない。君の魔力の測定値がはね上がる時は大抵レックスが関係している。ペトラ嬢のようにお金でもないし、イーディス様のように食べ物でもないんだ」

「私には……全く分かりませんし……見当もつきません」

「だから俺が調べているんだよ、『黒き聖女様』」


 「黒き聖女様」はミュリエルの異名だ。

 腹黒いとかそんな意味ではなく、ミュリエルがこの国では比較的珍しい黒髪だからである。黒い髪の聖女は過去を遡ってもミュリエルただ一人だ。


「ペトラ嬢もイーディス様も大体異名が当たってたのに、君は違うみたいだ。面白いね。ま、君の場合は外見の話だから」


 イーディス様はよく街で肉を買い食いしていたため、殿下の研究の前から一部の間では「肉の聖女様」だった。ペトラはお金大好きなのを信者の前で隠しもしないので、元々「守銭奴ペトラ」だ。


「君は『愛の聖女様』なのかもしれない」


 ミュリエルはそんなわけがないと思いながら、自分の髪に指を絡めた。


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