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いつもお読みいただきありがとうございます!

 レックスにエスコートされ、レストランで食事を楽しむ。

 護衛はもちろんいるが、二人で出かけるのは久しぶりだ。


「お礼状を書いてくれて助かったよ、ありがとう」

「あれで大丈夫だった?」

「皆、聖女から返事がきたから喜んでいたよ」

「ふふ。なら安心したわ」


 レックスとそんな会話をしながら、さっぱりした味のソースがかかったステーキを切って口に運ぶ。いかにも聖女イーディスが好みそうな肉だ。今度このお店を知っているか聞いてみよう。


 それにしても気になるのは、今日の護衛の中にイザークが入っていることだ。彼はちゃんと休んでいるのだろうか。


「ねぇレックスも忙しそうだけど、イザークは休みを取っているの?」

「彼はすごく真面目だけど、さすがに休みは与えているし、彼もちゃんと取っているよ。昨日は休みだったよ」

「なら良かったわ。いつも彼を見る気がしていたから」

「イザークが気になるなんて妬けるね」

「あら、旦那様の部下を気にするのは妻の務めじゃない?」


 クスクス笑いながら食事を終えて、ウィンドウショッピングを楽しんだ後で仕立て屋へ向かう。


 今度参加する夜会のドレスの確認に行くのだ。家に呼べば来てくれるのだが、デートの途中で寄ることにした。お店に寄った方がいろいろ見れて楽しいものね。


 メインの通りにある仕立て屋に入ると、数名の先客がいた。顔なじみの従業員が笑顔で近づいてくる。


「あ……」


 従業員とは違う方向から思わず漏れてしまったという声がした。どこだろうと探す前に続けて声がした。


「レックス様!」


 ん? レックス? この店内にレックスが二人いるのかしら。

 声の出所を探す前に声の発生源はこちらに向かってきていた。


「あ……」


レックスに近付いてきた女性がミュリエルを見て足を止めていた。


 あら、この女性。結婚式の後のパーティーで会ったわね。レックスと一度デートした伯爵令嬢のはず。レックスを見かけて思わず走り寄ったけど、私を見つけて立ち止まったってとこかしら。

 レックスを見ると、少し気まずそうにしながらもご令嬢に挨拶した。


「久しぶりだね、シシリー嬢」


 そんな名前だったかしら。ヴァネッサ・シシリー伯爵令嬢だったかしらね。シシリー伯爵家は羽振りがいいからこの仕立て屋にいても不思議はないわ。


「まさかここで会えるなんて思ってませんでした!」


 シシリー嬢と呼ばれたご令嬢はミュリエルを一瞬睨むと、レックスに愛想よく話しかける。ミュリエルは会話に割って入るのもどうかと思い軽く会釈した。もちろん、無視されたが。


 彼らは偶然会ったようなので、ミュリエルは先に飾りに使うレースでも見せてもらおうかとレックスの側から離れて従業員に声を掛ける。

 慣れているけど、大して知らないご令嬢に睨まれ続けるのはあまり気分が良くない。あちらは私を無視しているのだし、あちらがマナーに問題があるのだから。


「どうして最近一緒に出かけて下さらないのですか?」


 シシリー嬢の言葉で店内に一瞬緊張が走る。

 しかし、ミュリエルの前にいるのは高級な仕立て屋の従業員だ。客はほとんどが貴族である。固まりかけた空気をものともせずに従業員は「最近はこういったレースが流行り始めています。外国で人気の大変細かいデザインを取り入れていまして」と笑顔で説明してくれる。


「あの時は学園のグループで一度出かけただけじゃないか。シシリー嬢は婚約者にいろんな場所に連れて行って貰ったらいいよ」


 レックスの声は少し震えている。

 いやだわ、レックス。こちらの笑顔を保っている従業員の方がよほど貴族らしいじゃないの。


「そんなことないわ! グループで一緒に出掛けたなんてどなたと勘違いしているの!? なかなか予約が取れない人気のカフェに連れて行って下さったじゃないですか!」

「え、いや……そうだった?」


 うん、確かにそうだったわね。あのカフェ、内装が素敵だからしばらく行列ができてたのよね。

 ミュリエルの入手している情報とシシリー嬢の言っていることは一致している。


「私のことを『可愛い』と言ってくださったのに! 『また今度一緒に出かけよう』って! 結婚しても聖女様は相変わらずお忙しいんでしょう?」


 あら、これはまずいわね。護衛たちも令嬢がキャンキャン吠えているだけでは手出しできない。しかも内容が内容だから遮ったら「真実です」と認めているようなもの。レックスがきちんと撃退しないと駄目ね。

 私が忙しいから他の女と出かけている、スタイナー公爵家は聖女をないがしろにしていると捉えられても仕方がない状況だ。


 それにしても「可愛い」って言われただけで本気になっちゃったのね。レックスはあなた以外ともよく出かけているわよ。それにレックスはもう既婚者なのだし、こんな人目があるところでそんなことを小さくない声で喋らない方がいいと思うのだけれど。


「学園時代の話をされても困ってしまうな。これからは大人と同じ扱いで学生とは何もかも違うんだよ」


 レックスは直接否定も肯定もせず、話を逸らすことにしたようだ。


 ちなみに聖女と聖女候補は仕事があるので、学園に通う年齢になっても通わない。学園に通ってしまうと緊急時の対応が遅れてしまうし、出張が多いから出席日数だって足りなくなる。


 レックスをはじめとしたほとんどの貴族と試験に合格した平民は学園に通っている。

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