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レックスに新しく振られた仕事は予想よりも量が多かった。神殿での仕事がある日は睡眠時間を削っている。
「うわぁ……それを男に尽くしてるって言うんだよ」
ペトラには呆れられた。
「好きな相手の仕事は手伝いたいじゃない? その分、一緒にいられる時間も増えるもの」
レックスの仕事を手伝っていれば、相談することもあり一緒にいる時間が増える。それが嬉しいのだ。
「男にあんまり尽くしたらダメ。最初のうちは感謝するけど、あいつら尽くされるのが当然になって何の感謝もしなくなるよ。挙句の果てにお前がやって当然って態度になってさ。やらなかったらキレられるよ。ほんと理不尽。女って損。なんで女だけが尽くさないといけないの? アタシは絶対尽くしてもらうわ」
ペトラは結婚もしていないのになぜか分かった風に言う。恐らく誰かからそんな相談をされたんだろう。
「大丈夫よ、レックスはちゃんと感謝してくれるもの」
「ミュリエルが楽しく手伝ってるならアタシは何も言わないけどさ」
「神殿と似たような仕事だし楽しいわよ?」
「ならいいんじゃない? そうそう明後日は王子様が来るってよ。はー、やだやだ。あの人の護衛騎士、視線が怖いんだもん」
ペトラはミュリエルが結婚祝いにもらったお菓子をボリボリ食べながら嫌そうな顔をする。
今は休憩中で周囲に人がいないので、気兼ねなく話せる数少ない時間だ。
「聖女の研究は大切だものね」
「まぁねー。聖女候補の子達、あんまり力の強い子いないから。上層部は焦ってやんの」
「別に力が強くっても、どのタイミングで力を失うか分からないじゃない。焦ったって意味ないわ」
「アタシたちに起きた覚醒を人工的に起こせばいいって考えてんのよ。あとは、力を失う仕組みを解明するってとこかな。まったく。アタシだってなんで覚醒したかわかんないわよ。アタシは聖女候補だろうと聖女だろうと、お給料がきちんと出ればどっちでも良かったんだから」
明後日、神殿にやってくるのは第三王子殿下だ。魔法大国と呼ばれるアンフェリペ帝国に留学していた経験があり、現在は治癒魔法について研究している。
ペトラは王子に対してもあまり敬った態度を見せないので、忠誠心の塊の護衛騎士からは変な目を向けられているのだ。でも、聖女の地位は王子とほとんど同等なのである。
「なんであの時に覚醒したのか私にも分からないわ」
「イーディス様は肉を食べると力が強まるって結果が出始めてるけどさ。アタシたちは肉食べたって力変わんないもん」
100歳を超える聖女イーディスはまだまだ現役だ。結婚はしていない。
無愛想な人だがお肉が大好きで、第三王子の研究により彼女の力が強まるのは肉を食べた時だと結果が出始めている。神殿の近くの店でよく肉を買っているため、信者からは「肉の聖女様」なんて呼ばれていたりもする。
「さて、アタシは出張の書類まとめたやつを神殿長に提出してくる。そろそろ信者引き連れたランニングから帰って来るでしょ」
お菓子のクズをパンパンと払い、ペトラは立ち上がる。
「ミュリエルは明日休みだっけ?」
「そうよ。久しぶりのデートなの」
明日はレックスも休みなので、久しぶりに一緒に出掛けるのだ。
「あーはいはい。それはそれはお熱いことで」
「今度参加する夜会のドレスを決めないといけないのよ」
「あーはいはい。結婚して初の夜会だもんね~。お貴族様は社交が大変だわ~」
ペトラは呆れたように笑いながら、手を振って休憩室から出て行った。