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「相変わらず、さっぱりした聖女様だね」
媚を売らないペトラのことをレックスは柑橘系の果実のように表現する。レックスの周囲には媚を売る令嬢が多いから珍しいのだろう。
そもそもペトラと彼女たちを一緒にしないで欲しい。
守銭奴ペトラは自立心に溢れた女性なのだ。媚を売って玉の輿を狙い少しでも楽して暮らしたい貴族のご令嬢たちとはガッツが違う。いや、種類が違うガッツなだけか。
「お疲れ様。この書類が終わったから渡しておくわね」
「あぁ、ありがとう」
そんなことを考えながらレックスに任されていた書類を渡すと、レックスは確認することなく控えていたイザークに書類をそのまま渡した。
「ミュリエルと話があるから、書類を確認してきてくれ」
イザークが書類を手に出て行き、レックスとミュリエルはソファに並んで腰かけた。
「やっと二人でゆっくりできたね」
「そういえば……新婚旅行の後は慌ただしかったものね」
もしかして、二人きりの時間が欲しくてイザークを部屋から出て行かせたのかしら。嬉しくて思わず頬が緩む。
「そうだ、仕事の件で相談なんだけど」
二人で微笑みあっていると、レックスの口から出たのは仕事の話だった。ミュリエルの甘い気分は若干降下した。
「父からいろいろ教わっていて慌ただしくってね。結婚祝いの返事がまだできていないんだ。ミュリエルが書いてくれないか?」
「え? そうだったの? もう日にちが経ってるから早くしないと」
「使用人に任すよりも聖女であるミュリエルから返事が来た方が皆喜ぶからね」
「でも、あなたが親しくしている友人もいるでしょう?」
「ミュリエルからの返信を喜びそうな人をピックアップしているから」
「そ、そう。じゃあ、量にもよるけど明日から取り掛かるわ」
ミュリエルは頭の中でスケジュールを組みなおす。明日は神殿に行かなきゃいけないから取り掛かるのは帰ってきてからで……。
「あとは、領地の仕事も任せたいんだ。不平が上がってきている内容をチェックして対応すべきか判断して欲しい」
「そうなの? でもそれはお義父様からレックスに任された大きな仕事じゃなかった?」
レックスはちょっと疲れた表情をして、甘えるようにミュリエルの肩に体を寄りかからせる。
「だんだん父から追加される仕事が多くなっていてね。ミュリエルは聖女としての役目で結婚前から各地に赴いていて、人脈がある。これまではミュリエルと相談しながらいろいろ段取りまでしてもらっていたけど、ミュリエルに任せた方がいいかなって考えたんだ」
「そ、そう? うまくできるか分からないけど……頑張るわ」
「ありがとう。分からなかったらイザークたちにも相談して」
レックスから追加される仕事に「私がやっていいものかしら?」と疑問を抱きつつ、そんなに最近レックスは大変だったのか、自分のことばかりで気づけなかったと少し後悔する。
今はペトラばかりが出張に行っているが、覚醒した後の聖女候補期間はいろんな地域に連れていかれたものだ。
レックスの手が腰に回って体がより密着する。ドキリとして顔を上げると、レックスの整った顔が近づいていた。ミュリエルはそっと目を閉じる。
コンコン
ノックの音に二人でハッとして体を離す。許可を出すとイザークが入って来た。
「ここに一カ所誤字がありましたので。それ以外は問題ありません」
「あ、すぐに直すわ」
レックスの顔が羞恥なのか少し赤い。ミュリエルも頬が火照っている感覚があるから顔が赤いはずだ。部屋に漂う甘い空気に気付いていないのか、イザークは淡々と書類を指差す。
「では、先に執務室に戻っております」
イザークが出て行って扉が完全に閉まったのを確認して。どちらともなく顔を見合わせて微笑むと、キスをした。
ミュリエルは胸に広がる甘酸っぱい気持ちと共に幸せをかみしめていた。