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いつもお読みいただきありがとうございます!

 聖女ペトラが出張から帰って来た。


 彼女が他地区の神殿に応援に行っていたので、穴を埋めるためにミュリエルの働く日数は新婚早々多めになっていたのだ。


 王都にはミュリエルとペトラとイーディスの三人の聖女がいる。王都ではない地域の神殿にも聖女は配置されるのだが、彼女たちは王都の聖女よりも力が弱いため対応できないこともある。そのため、ペトラが応援に行く必要があるのだ。


「はい、これお土産~。ミュリエルの紫紺の瞳によく合うわよ。なんたってアタシの見立てだもの」


 ペトラは、ミュリエルの結婚前からミュリエルの実家であるアトス伯爵家に出張帰りに顔を出していた。結婚してミュリエルはスタイナー公爵家にいるので、今回は当然のように公爵家に約束もなくやってきた。


 彼女は平民出身といえど、現在の肩書は聖女である。アポなしでも追い返されず家令が知らせに来て、当然のようにミュリエルの部屋まで通された。


 義母に知られたら「約束もない客人を通すなんて。公爵家が舐められるわ」とネチネチ文句を言われるだろうが、仕方ない。ペトラはミュリエルの大切な友人で同僚だ。力が覚醒する前もした後も。


「ありがとう。でもペトラだって結婚式の準備があるのに出張ばかりでいいの? 私だって毎週のようでなければ出張に行けるわよ?」


 お土産のイヤリングを受け取りながらミュリエルは一応聞いた。

 鉱山のある街の神殿に行っていたので、宝石はたくさん売っているのだろう。


「いーのいーの。結婚式の準備は全部あの人がやってくれるからさ。アタシは出張手当が欲しいから出張に行ってんの。譲るわけないじゃん。お金は大事よ! バシバシ稼げる時に稼ぐわよ。聖女やめたら豪遊するんだから」


 守銭奴ペトラ。それが彼女の異名である。聖女の異名としてはどうなのか。

 とにかく彼女はお金を稼ぐことに貪欲だ。結婚に興味はないのだが、聖女は結婚しても力を失うことがないので、独身のままでいると求婚者がすごいことになる。


 いや、実際に求婚者はすごいことになっていた。ミュリエルは伯爵家の娘であり、レックスと婚約していたのでそうではなかったが、貴族ではないペトラにはさまざまな求婚が来ていて男性を見るだけでうんざりしていたっけ。それで、ペトラは仕方なく結婚する運びとなった。


 ペトラのお相手は、熱心に彼女を口説き続けた商人だ。ペトラが言うには「こっちにベタぼれな相手と結婚した方が絶対うまくいく。何でも言うこと聞くから」だそうだ。婚前契約書も作成済みなんだとか。


「ゴーザの街の神殿の聖女も力が弱ってきてるからまずいかも。あのまま弱ってくなら彼女は聖女引退かな」

「ゴーザの街は、ええっと、ジェマ様だよね。40歳くらいの」

「そーそー。彼女の治癒魔法、病気に対しては強いんだけど怪我はあんまり。それは最初からだからいいんだけど……鉱山の事故にはそれで対応できてたわけだし。でも最近病気への治癒の効きが悪いみたいでね。あの街で感染症出たらまずいかも」


 治癒魔法のデメリットは分かっているものの、聖女の力が弱まったり、ミュリエルたちのように突如強まったりする原因はまだよく分かっていない。


「そういえば今日は何してたの? 休みでしょ?」

「レックスから任された仕事をしてたわ」

「まだあの頼りなさそうな男に尽くしてんの?」


 ペトラはレックスのことが好きではない。というか貴族の男性全般が好きではない。ペトラに言わせるとナヨナヨしていて頼りないんだそうだ。


「あら、婚約者時代から任されていた仕事だもの。特に変わってないわよ」

「ふぅん。アタシは旦那の仕事は絶対タダで手伝いたくないわ」


 ペトラは小指をピンと立てたまま、紅茶を飲む。彼女の砕けた口調も紅茶の飲み方も貴族なら眉をひそめるだろう。でも、ミュリエルは気にしない。


「アタシがいない間、忙しかった?」

「結婚祝い攻撃で大変だったくらいよ」

「そっかぁ、アタシの時はお祝いでお金欲しいなぁ。割引券でもいいけどぉ」


 ペトラはお金を想像しているのかうっとりしている。

 お喋りしていると、ドアがノックされてレックスが顔をのぞかせた。ペトラはさっと立ち上がる。


「え、もう帰るの?」


 いつもはもっとお喋りして帰るのに。

 神殿では誰が聞いているか分からないから、こんな風にお喋りしている時間は休憩がかぶらない限りあまり取れないのだ。忙しいとお互い朝会っただけ、みたいなこともある。


「アタシとしたことが新婚さんのお宅に長居しちゃった! じゃあまた神殿で!」


 ペトラは何度か会っているレックスのことだって好きではない……いやむしろ嫌っているのでそそくさと帰る準備をしている。もしかして、スタイナー公爵家だからペトラも気を遣っているのか。


「仕事のことで相談したかっただけだから、後でも……」


 レックスは恐縮して譲ってくれようとする。


 が、「じゃあ、ドア開けてんじゃねーよ。アタシが来てること使用人から聞いてわざわざ邪魔しに来てんだろ。ちったぁ気ぃ遣えよ、このボンクラ」とペトラは小声で毒づいてから、何事もなかったようにレックスにエセ笑顔を向けた。

 ペトラはイライラすると大変口が悪くなるのだ。可愛いのに口は悪い。


「あら?」

「ペトラは初めて会うわよね」


 レックスの後ろに控えるイザークを見つけて、ペトラは首をかしげる。


「補佐をしてくれるイザークだ。ホルフマン侯爵の三男だよ」

「あ、そうなんですね~。よろしくお願いします」


 ペトラはレックスによるイザークの紹介にすぐ興味を失い、颯爽と帰って行った。

カクヨム版に加筆・修正を加えています。


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