第二章 5 『ジャーニー』
「こっちの道はかなり整備されてるんだな!」
「乗り心地が全然違うね!」
馬車でグランガルド王国に向かっているロキたちは、旅行気分でテンションが上がっていた。
フランジャーマからアビリスタへ14日間の馬車移動したロキたちにとって、グランガルドへの4日間の道のりは短いものだ。道がきれいで、乗り心地が良かった事で、景色を楽しみながら移動していた。
旅立つ準備に数日かけたのは、食べ物、飲み水を生成する魔導製品用の魔石、馬用の餌、装備品の準備の為だ。道が整備されているとはいえ、近くの森から魔物が出る可能性はあるからだ。
ロキは魔導士として、自分で改良した杖を用意した。手で触れる事で物を変質させる力を、杖を通して変化出来るようにルーン文字を刻んでみたら上手くいった。
この長い杖で足元を触れていれば、すぐに針にして飛ばす事も壁を作る事も出来る算段だ。さらに短い魔導の杖を4本(火、水、氷、風)取付け、いつでも外して使えるようにした。
あのドアノブ対決の前から準備していたものだが、杖の方が威力も飛距離も出る。素材との相性もあるんだろう。
ベルは剣士として、魔石の力で火を纏う剣になる、いわゆる魔剣というものを学園長からもらった。普通の素材と加工法では、使うとすぐに壊れてしまうらしい。インヴェントの鍛冶屋が作ったこの魔剣は安定して使える一品だそうだ。
今回の研究の成果と、旅の依頼料という名目でロキが受け取ったが、自分より腕の立つベルに使ってもらう事にした。
1日目は野営し、2日目は宿場町、3日目は野営して、4日目に到着。
万全に準備をしていたが、特に問題なくグランガルド王国の中心都市に到着した。帰りの準備は御者に任せて、ロキたちは街を歩き始めた。
「良い匂い~!」
「この店の並びはズルいな!」
宿を出てすぐは特産品や衣類などの店が多かったが、少し行くと、飲食店が立ち並んでいた。野営の後の美味しそうな匂い。もはや回避なんて不可能だ。
「焼肉串2つ!!」
「野営と変わらない!!」
とはいえ、味付けが違うからとても美味しかった。
街の中心部に入る門の手前、ウキウキで街を巡るベルの動きが止まった。
「ベル、どうした?」
「ひ、人が・・・!」
血の気が引いた表情のベルが指差した先には、八百屋の横に置いてある野菜を入れて運ぶための大きなカゴ。
そして、その中には7、8歳くらいの少年が血だらけになって横たわっていた。
「う、、、うそだろ・・・!?」
ロキは一瞬叫びそうになったが、口を手でおさえて静かに驚く。
こんな街中で早速騒ぎの中心になりたくない。
「ん?おい!目立つからどっかいけよ!」
「へ?」
倒れていたはずの少年から急に暴言を吐かれた。
「お前、血だらけだけど大丈夫なのか?」
「ん?やべ!トマトで服が汚れちゃった!!母さんに怒られる!!」
「トマトかよ!?無事でなによりだけども!!」
「みっけ!」
「うげっ!」
別の少年が横に立っていた。これは間違いなくかくれんぼだ。こんな広い街で、この瞬間に見つかったのなら時間の問題だったな、とロキは罪意識を無くした。
「にいちゃんのせいで見つかっちゃったじゃないか!」
「悪かった。ごめんな!」
「子どもだからって、そんな簡単に済まそうとするなよ!いいか!俺はこの世界の人間じゃない!俺の名はジャーニー・スカイ・トロピカル・アンダー・ヒューズ・マンテンだ!」
「長すぎて覚えきれない!!」
「また変なこと言ってる。いいから行くよ、タロー君。お兄さんたちじゃーねー!」
「コラッ!その名前は出さないでよ!」
そう言って、後から来た少年が、ジャーニー・・・タロー君を連れて行った。
「何事もなくて良かったね、お兄ちゃん!」
「まぁ、そうだな。」
簡単に済まそうとするなよ、って何するつもりだったんだろうか。
ほんの少し肌がピリッとしたけど、すぐに消えた。
「よし!それじゃあ、王城に向かおうか!」
ロキは完全に気持ちを切り替えて、王城へ向かった。